賃貸物件のオーナー様による「入居不可」の判断が問題になる場合

 賃貸物件の入居者募集を依頼されるオーナー様の中には、入居者の属性に過剰にこだわる方がいます。入居希望者がなかなか見つからないということで相談を受けると、オーナー様が入居者の属性にこだわりすぎていることが原因であることがよくあります。

 入居希望の理由、勤務先、収入、人柄等において何の問題もないと思われることから賃貸保証会社(家賃保証会社)による入居審査を行ってもらった結果、保証契約の引き受け可能と判断されたにもかかわらず、オーナー様から「この方の入居はお断りします」と言われることがあります。いくつかのパターンがありますので、妥当な判断と言えるかについて検証します。

 新型コロナウイルス感染症およびウクライナ情勢のニュースに隠れ、あまり報道されないのですが、対応を誤ると「差別された」と受け取られて民事裁判を提起され、オーナー様が敗訴して慰謝料の支払を命じられる事案が増えています。

 特に注意が必要なのは、以下の3項目です。対応を誤ると慰謝料請求訴訟を提起されることがあるので特段の注意が必要です。

1.「有名人は入居不可」について

 芸能人、スポーツ選手等の有名人の入居を一切不可とするオーナー様がいらっしゃいます。しかし、有名人であるという理由により入居を認めない旨を告げると「差別された」と受け取られます。

 特に賃貸保証会社(家賃保証会社)による入居審査を行い、審査を通過した後にオーナー様が入居不可とすると、民事裁判を提起されるなどの大きなトラブルに発展することがあります。

 オーナー様が有名人を入居不可にしたがる理由は、概ね以下の通りです。

・仕事の関係で長期間留守にすることが多く、伝達事項(消防点検等)が伝わらない。
・不祥事が起きるとマスコミが押しかけ、大騒ぎになる恐れがある。
・不祥事や怪我が原因で無収入になり、家賃が滞る恐れがある。
・毎日のようにホームパーティーを開かれ、他の入居者からクレームが出る。
・ファンが押しかけ、他の入居者や近隣住民からクレームが出る。

・ワガママな方が多く、オーナー様や管理会社の注意に従わない方が多い。

などというものです。しかし、これらの「心配事」は杞憂です。

 仕事上の理由により長期間留守にすることは、芸能人やスポーツ選手でなくてもよくあります。自営業者や会社勤めの方でも、遠隔地への出張のために長期間留守にすることがあります。連絡事項がある場合は予め申告された連絡先にSNS、メールなどで知らせれば足ります。

 事件や不祥事が起きるとマスコミが押しかけて騒ぎになるのは、 芸能人やスポーツ選手に限定される話ではありません。管理会社がしっかり対応すれば良いだけの話です。

 不祥事や怪我が原因で無収入になる恐れがあるのは、有名人に限りません。会社勤めの方が何らかの事件を起こし、懲戒解雇されたことから無収入になる事案は多いです。万が一、家賃が滞った場合は賃貸保証会社(家賃保証会社)が家賃を代位弁済しますので、心配は不要です。

 今時、自宅で毎日のようにホームパーティーを開催する有名人はほとんどいません。有名人がパーティーを開催する場合は繁華街の店における一室を借りて開催することが多いです。

 ファンの押しかけも、入居者および関係者以外の立ち入りを厳禁することについて、管理会社がしっかり対応すれば良いだけの話です。

 有名人は全てワガママと考える方が多いのですが、偏見です。勤め人の方でも自分勝手に振る舞う方は大勢いますし、中には粗暴な振る舞いをする方がいます。

2.「外国人は入居不可」について

  東京都は「外国人であるという理由で入居不可にすることは、人権上の大きな問題であり許されない」としており、不動産会社に対し、オーナー様を啓蒙するように呼びかけています。しかし、あくまでも一般論ですが、いわゆる「合理的差別」に該当する場合は許される場合があると考えられます。 

 具体的には、入居希望者である外国人と意思疎通が出来ず、身近に通訳がいない場合は賃貸借契約を締結する前提を欠くので、入居不可と判断してもやむを得ないと考えられます。

 どのような場合に「意思疎通ができない」と判断するかが問題になりますが、日本語、英語のいずれも理解できないのであれば意思疎通ができないと判断できます。日本語も英語も理解できない場合、賃貸借契約の締結に必要な重要事項説明を行えません。入居希望者が重要事項を正確に理解できないと、後日に深刻なトラブルに発展し、入居した方が不利益を被ることがあります。このため、入居を認めないとしても「合理的差別」として認められると解されます。

 なお、入居希望者が「知人に通訳がいるので、通訳を通じた意思疎通が可能である」等と主張した場合はその都度、個別に検討することになります。

  日本語または英語を理解できるにも関わらず、外国人であることを理由として入居を認めないことは人権上の問題があります。外国における訴訟社会の中で生活してきた方の場合は、ためらうことなく民事裁判を提起し、オーナー様に慰謝料を請求しますので要注意です。

3.「特定の大学に在籍しているか、卒業してなければ入居不可」について

 あるオーナー様から、特定の大学の現役学生または卒業生に限定して入居者を募集して欲しいと依頼されたことがあります。このような要望をされても、出身大学により入居が認められない旨をレインズやポータルサイトに掲載することは許されないので、物件を公開する手立てがありません。

 このオーナー様は学歴や出身大学による差別意識丸出しの主張を展開するので、入居者募集の依頼を丁重にお断りさせていただきました。幸い、入居者募集を開始する前に、出身大学により入居の可否を判断する旨を告げられたことから、入居希望者とのトラブルにならなくて済みました。

 しかし、オーナー様が不動産会社に入居者の募集を依頼する際に、出身大学により入居不可になる旨を不動産会社に告げなかったことから不動産会社が入居希望者を募集し、オーナー様が指定する大学の現役学生または卒業生ではない方が入居の申し込みをした場合には大きなトラブルに発展します。

 賃貸保証会社による入居審査を通過したにもかかわらず、オーナー様が入居希望者の出身大学を理由として入居不可とした場合は、民事訴訟を提起されて慰謝料の支払いを命じられても仕方ありません。

 さらにオーナー様、不動産会社のいずれも都道府県(または国土交通省)から行政指導を受ける恐れがあります。

※明日の投稿に続きます。