賃貸物件のオーナー様による「入居不可」の判断が問題になる場合(その2)

※昨日投稿した内容の続きです。

4.「高齢者は入居不可」について

 東京都は、高齢者であることを理由として入居不可にすることは人権問題であり、許されないとしています。しかし、不動産会社の中にはいわゆる「門前払い」をするところが非常に多いです。

 オーナー様は、入居者が死亡した場合に事故物件とされることを恐れています。事故物件になると次の入居者を募集する際には告知義務が課せられ、家賃を大幅に値下げしなければなりません。

 さらに、「原因が何であれ、死亡事案が発生した物件は全て事故物件である」とする見解が根強く支持されていたことから、大半のオーナー様は不動産会社に「高齢者は入居させないで欲しい」と懇願します。結果として、多くの物件において「高齢者は入居不可」とされていました。

 この状況は是正しなければならないと国土交通省は考えたのでしょう。昨年、国土交通省は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました。内容の詳細は、国土交通省のWEBサイトを参照願います。

以下、このガイドラインから引用します。

宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン

【告げなくてもよい場合】
①【賃貸借・売買取引】取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)。
 ※事案発覚からの経過期間の定めなし。
②【賃貸借取引】取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死が発生し、事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)から概ね3年間が経過した後
③【賃貸借・売買取引】取引の対象不動産の隣接住戸・日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死
 ※事案発覚からの経過期間の定めなし

・ 告げなくてもよいとした②・③の場合でも、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は告げる必要がある。
・ 告げなくてもよいとした①~③以外の場合は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、告げる必要がある。
・ 人の死の発覚から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は告げる必要がある。
・ 告げる場合は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)、場所、死因及び特殊清掃等が行われた場合はその旨を告げる。
<留意事項>
・ 亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があることから、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない。
・ 個々の不動産取引においては、買主・借主が納得して判断したうえで取引が行われることが重要であり、宅地建物取引業者においては、トラブルの未然防止の観点から、取引に当たって、買主・借主の意向を事前に十分把握し、人の死に関する事案の存在を重要視することを認識した場合には特に慎重に対応することが望ましい。

ガイドラインのポイント(PDF資料)

 このガイドラインが策定され、施行されたことにより、「高齢者であることを理由に入居不可」とする物件は次第に減ることが期待されます。さらに民間の見守りサービス等を利用し、病気になった場合の対応を予め決めておく等を行うことにより、収入に関する問題がなければ高齢者の入居を断る理由はほぼなくなるのではないかと思われます。

5.「生活保護を受けている方は入居不可」について

 これもよくあるパターンです。しかし、「代理納付制度」を活用することにより、家賃が支払われることについては地方自治体が責任を持つので、入居者が家賃を費消する心配はありません。この制度では、生活保護受給者に支給する金額を家賃とその他に分別し、家賃相当額はオーナー様(または管理会社)の預金口座に直接振り込みます。

 以前は、代理納付制度を利用できない地方自治体がありました。このような地方自治体では、家賃を含めた支給金額を一括して生活保護受給者の銀行預金口座に振込みます。

 生活保護受給者が家賃を支払うか否かは、当該受給者に任されていました。生活保護の受給者である入居者が、家賃をオーナー様(または管理会社)に振り込まず、滞納し続ける場合でも地方自治体は「オーナー様と受給者(入居者)との間で解決して欲しい」という態度でした。これでは「生活保護を受けている方は入居不可」とするオーナー様が増えても仕方ありません。

 会社勤めの入居者は、会社から解雇された際に家賃を滞納する危険があります。しかし、生活保護の受給者は、代理納付制度を活用することにより家賃を滞納することがありません。

 生活保護を受けている理由が問題になりますが、病気がちで働けないことから生活保護を受けている方の場合は健康面をお尋ねし、個別に判断することになります。

 企業の経営者で会社が倒産したことから自己破産に追い込まれた、または自営業者で破産宣告を受けた等の理由により生活保護を受けることになった方は、健康面に問題がなく、重要事項説明を理解できる方であれば、入居を拒む理由は少ないと考えられます。