賃貸物件の入居者募集に際し、常時無施錠とすることの是非

 賃貸物件の客付けを依頼され、物件情報をレインズや各種ポータルサイトに掲載すると、客付け側の不動産会社から「いつ内見できるかわからないので、物件の鍵を常にかけないでおくことはできませんか。」と尋ねられることがあります。

 この不動産会社では、来店したお客様のほとんど全てをその場で車に乗せ、同時に数件程度の賃貸物件をご案内するとのことでした。「ご案内するルートはお客様の予算によりいくつか決めてあります。内見の日時はお客様の来店に合わせるので、その都度解錠したり鍵を取り寄せるとお客様を待たせるので困ります。常時解錠しておいて欲しいのですが、可能でしょうか。」という要望でした。

常時無施錠は、防犯および保安上の観点から非常に問題がある
 この申し出をしてきた不動産会社は自社の営業を効率的に進める為にこのような提案をしてきたのですが、常時無施錠とすることは防犯上の問題があります。また、オーナー様に対し、何月何日に何人の内見を実施したかを報告することが困難です。このため、この提案はお断りするしかありませんでした。

 防犯上の問題についてですが、空家かつ無施錠であることを知った者が住み着くことがあります。夜になるといわゆるホームレス等が入室し、明け方まで過ごすことがあります。過去には暖を取るために丸めた新聞紙などを室内で燃やされたことにより火災が発生した事案があります。

 このような状況下で火災が発生して建物を焼失させた場合、オーナー様から管理を受託している不動産会社は、民法が定める善管注意義務に違反したとして損害賠償を請求されることがあります。

 また、中学生や高校生、無職の若者等のたまり場となり、シンナーなどの有機溶剤を吸入する場所として利用される恐れがあります。最悪の場合、室内において死亡事故が発生する恐れがあります。

 賃貸物件とは無関係の者であっても、室内で死亡した場合は事故物件になることがあります。また、火災を発生させた場合は火災物件になります。いずれも、入居者募集の際には告知義務があります。

 当然ですが、事故物件または火災物件において入居者を募集する際には家賃を下げなければ入居者がなかなか決まりません。常時無施錠にすることにより内見をする方が増えても、死亡事故や火災に遭遇する懸念が大きくなるので得策とは言えません。

オーナー様に対し、不動産会社から「空室の賃貸物件における常時無施錠」を提案された場合
 防犯および保安上の観点からは、お断りすることをお勧めします。多くの場合、キーボックスを置き、鍵を入れておく等の対応で足ります。

 常時無施錠は、内見を実施する不動産会社の単なる「ワガママ」であると捉えていただいて差し支えないと思います。