「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が及ぼすと思われる混乱

 ここ1~2年ほどの間に、不動産賃貸に関する法令やガイドラインが大きく変更されています。最も大きい変更は、令和2年4月に施行された連帯保証に関する制度変更です。

 今回施行された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」も賃貸不動産を利用されるオーナー様、賃借人の双方に混乱を及ぼすと思われます。

連帯保証人の制度変更(令和2年4月施行改正民法)による混乱
 この変更では連帯保証人を引き受ける方に対し、万が一保証債務を実行しなければならなくなった場合に請求される金額の最大額(極度額)を通知しなければならないとして民法などが改正されました。

 実務では賃貸物件を借りる方の連帯保証人には最大で2年分の家賃および共益費の合計額を支払ってもらう必要があることを告知し、この金額を「極度額」として連帯保証人引き受け承諾書や賃貸借契約書に記載しなければならなくなりました。

 このため、都内にあるほとんどの賃貸物件において賃貸保証会社(家賃保証会社)の利用が必須になりました。しかし、賃借人が支払う初期費用が高額になることから「友人に連帯保証人になってもらう。友人に極度額を告げる必要は無い。従来の方法で対応してくれないなら他の店に行く。」と言われる入居希望者がいます。

 連帯保証に関する制度の変更を説明することは一苦労です。報道されることがほとんどないことから一般に周知されておらず、不動産会社の窓口では混乱が続いています。

宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドラインが引き起こすと想定される混乱
 トラブルが発生する可能性が高いと思われる問題点は、物件内部で自殺や殺人による死亡事案が発生した場合でも、賃貸物件の場合は概ね3年を経過すれば事故物件とは見做さず、告知が不要になるという点です。

 事故物件を所有しているオーナー様におかれては朗報であると言えるかもしれません。しかし、仲介する不動産会社においては入居者とのトラブル発生が懸念されます。

 あくまでも実務上の話ですが、事故物件であることを告知され、納得した上で入居している賃借人の中にも、「今まで幽霊の存在を信じていなかったが、幽霊らしきものが現れるので退去したい」とか「怪奇現象が頻発するから何とかして欲しい」と言われる方がたまにいます。

 今回策定されたガイドラインでは、自殺や殺人が発生した物件でも、賃貸物件であれば概ね3年の経過により事故物件としての告知は不要であるとしています。事案から概ね3年が経過した物件はいわゆる「事故物件」ではなくなり、心理的瑕疵も存在しないものとして扱われます。

 このため、不動産会社の担当者が、賃貸物件を内見した入居希望者から事故物件であるか否かを尋ねられた場合に、数年前に自殺や殺人が発生した物件であっても「事故物件には該当しません。心理的瑕疵はありません。」と説明することになります。

 今回策定されたガイドラインでは、「人の死の発覚から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は告げる必要がある。」とされています。

 しかし、不動産会社の担当者が「いわゆる事故物件ではありません」と説明すれば、それ以上しつこく問い合わせる入居希望者はほとんどいないと思いますので、実効性は乏しいです。

 想定されるトラブルとして考えられるのは「事故物件ではないと言われたから入居したのに怪奇現象が頻発する。近所の方に訊いたところ、数年前に住人が自殺したと言われた。人が自殺した物件は事故物件ではないか。退去するので仲介手数料の返金と転居に要する費用を請求する。」等と主張する賃借人が現れることです。

 不動産仲介会社の担当者は「ガイドラインに従うと、この物件は事故物件ではない。このため、事故物件であるとは説明しなかった。」と主張することになります。しかし、大半の賃借人は納得しないでしょう。

 このガイドラインは、有効性を巡る裁判があちこちで提起される可能性があります。