困った相談(その4、サブリース契約を解約したい)

 1棟マンション、アパート等のオーナー様から「サブリース契約を解約したい」という相談を受けることがあります。

 サブリース契約とはオーナー様が所有する収益用不動産(1棟マンション、アパート、収益用区分マンション)をサブリース事業者が一括して借り上げ、サブリース事業者は空室の有無にかかわらず家賃相場の約8割(東京都区内の場合)をオーナー様に支払うことを内容とする契約です。

 借り上げ期間中の管理は全てサブリース事業者またはその下請け業者が行います。オーナー様が入居審査をする必要はなく、退去の際に立ち会う必要もありません。入居者からのクレーム処理、その他の管理業務の全てをサブリース事業者が行うので、オーナー様は賃貸住宅の運営業務を全て丸投げでき、手を煩わせることなく家賃収入を得られるというシステムです。 

 管理業務を丸投げした状態で家賃収入を得られるので、本業が忙しい方においては便利な契約です。さらに1棟マンション、アパートを購入する際に事業用ローンを利用する場合、サブリース契約が締結されると空室リスクが低減されることから金融機関の心証が良く、ローン契約を締結しやすくなります。このため、あえてサブリース契約を締結するオーナー様がいらっしゃいます。

収益用不動産運営の初心者は、サブリース物件に手を出すべきではない

 収益用不動産の運営に関する初心者は不利な特約を内容とする契約を締結させられたり、契約後に一括借り上げ家賃の減額を請求されがちです。後述しますが、多額の損失を招くことがあります。

1.特約の問題

オーナー様が不利になる特約のうち、主なものは以下の通りです。

オーナー様が不利になる特約の例

特約1:室内のリフォーム、設備の更新、建物の外壁塗装はサブリース事業者が指定する業者に依頼しなければならない。他の業者に発注した場合は違約金を支払うことに同意する。

→ サブリース事業者が指定する業者による設備更新及び修繕に要する料金が相場の2倍以上に設定されていることがあり、この場合は他の業者に発注する場合の2倍以上の料金を請求されます。

特約2:建物の大規模修繕(外壁塗装、屋上の防水塗装、他)はオーナーの全額負担により5年毎に必ず行わなければならない。行わない場合は違約金を支払うことに同意する。

→ 「5年毎」は短すぎます。海辺や風雨が強いエリアでなければ10~15年毎で構いません。

特約3:前回の設備交換、クロス貼り替えから5年以上が経過している場合において、入居者が退去した際には故障の有無にかかわらず室内のエアコン、浴槽、湯沸かし器、キッチン、トイレ設備を全て新品に交換し、室内のクロスを全て貼りかえなければならない。費用は全額をオーナー負担とする。 設備の新品交換およびクロス貼りかえを行わない場合は違約金を支払うことに同意する。

→ 故障していなくても一定の期間が過ぎたら設備の交換およびクロスの貼り替えを義務づける内容です。「5年」という期間に合理的な根拠はなく、想定される寿命よりもかなり短いです。

※この他にもありますが、割愛します。

 これらの内容の特約がある場合は特約の修正または撤回を求めるべきです。応じない場合は、その業者とサブリース契約を締結しないことをお勧めします。

2.家賃の減額請求に関する問題

 借地借家法は借主による家賃の減額請求を認めていますので、景気の悪化などを理由としてサブリース事業者が一括借り上げ家賃の大幅値下げを要求することがあります。

 収益用不動産に関する知識および運営経験に乏しいと満足な交渉が出来ず、必要以上に大幅な値下げ要求を受け入れる結果になりがちです。大幅な値引き要求を受け入れた結果、事業用ローンの返済が出来なくなり破産したオーナー様が多くいらっしゃいます。

 オーナー様において、収益用不動産に関するある程度の知識及び運営経験がないと、サブリース事業者との交渉は困難です。

サブリース事業者は借地借家法により保護される

 サブリース契約をオーナー様側から解約することは極めて困難です。その理由は、サブリース契約とは賃貸借契約であり、借地借家法により保護されるからです。サブリースの一括借り上げ代金がオーナー様に支払われなくなる等の事情がなければ、オーナー様による解約は認められません。

 オーナー様が極めて不利になる特約、家賃の減額請求がきっかけとなりサブリース契約を解約したいとの相談があります。ところが解約には多額の違約金を支払う必要があります。

 違約金の金額は、解約されなければ得られるであろう利益相当額とされます。家賃8万円の部屋が10室あるアパートの場合でも2000~4000万円以上(建物の築年数等により変わります)になることがあります。これでは容易に解約できません。

 また、収益用不動産自体を売却するとしても、サブリース契約が締結されているために想定家賃の8割しか得られない物件は、本来の価格の8割程度の売却価格になります。収益用不動産の売却価格は利回りで決定されるからです。

 結果として事業用ローンの残債を返済できず、借金が残ることがよくあります。

まとめ

 サブリース契約はとても便利なように思え、金融機関における心証も良いのですが、契約する際には不利な特約の存在を見抜いて是正させることができるレベルの知識および経験が必要です。

 賃貸住宅運営の初心者で、経験者の助言を得られない方はサブリース物件を購入するべきではありません。また、収益用不動産を購入する際にサブリース契約の締結を勧められても、勧められる条件のままで安易に契約することは絶対に避けるべきです。

 本業が多忙である等の理由によりサブリース契約の締結を前向きに考える場合でも、特約については契約前に経験者に確認してもらうことを強くお勧めします。