賃貸物件の入居希望者が生活保護受給者の場合

生活保護を受けているお客様が来店し、入居できる賃貸物件を探して欲しいと依頼されることがあります。また、懇意にしている不動産会社の営業担当から「生活保護を受けられているお客様が来店し、入居先を探しているのですが、入居できるところはありませんか。」との電話が時々あります。

残念ながら「生活保護を受けている方は全てお断り」とするオーナーが大変に多いのが実情です。東京都から「オーナーを啓蒙し、説得して欲しい。」との要請があります。しかし、「うるさく言うなら管理を他の会社に変える。誰が何と言おうと生活保護は全てお断り。」と言われるオーナーがとても多いです。

また、不動産管理会社の中には「生活保護は断った方が良い」などとオーナーに対し積極的にアピールしているところがあります。

オーナーが「生活保護受給者の入居お断り」とする理由は、概ね以下の通りであると思われます。代表的な主張を四つ取り上げます。後述する「オーナーの主張その3」を除き、妥当とは言えなくなっています。

オーナーの主張その1.家賃を滞納される恐れがある
従前は、生活扶助、住居扶助(家賃など)、医療扶助、その他の合計額を受給者の預金口座に一括して振込み、実際に家賃を支払うかについては受給者に任せている社会福祉事務所が大半でした。

このため、本来であれば家賃の支払いに充当するべき金額を生活費(飲食費)やギャンブル、パチンコ代に充ててしまい、家賃を支払わずに滞納する方が多くいました。生活保護の受給者から家賃を滞納された経験があるオーナーは少なくありません。

困ったことに、オーナーが福祉事務所に対してクレームを入れても「賃料の滞納が起きてもそれはオーナーと賃借人との間の問題であり、我々は関係ありません。」と突っぱねられることがよくありました。

これでは「今後、生活保護の受給者は二度と入居させない。」と考えるオーナーが増えるのは必然です。結果として「生活保護受給者の入居は一切お断り」を不動産会社に依頼することになります。

しかし、現在では「代理納付」の制度があります。この制度を利用すると、住宅扶助費は社会福祉事務所より家主に直接支払われますので、滞納される恐れはまずありません。

さらに、令和2年4月1日より
・家賃等を滞納している者に対しては、原則として住宅扶助を代理納付
・住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律 第21条第1項に規定する登録事業者が提供する、同法第10条第5項に規定する登録住宅(セーフティネット住宅)に新たに生活保護受給者が入居する場合、原則として代理納付を適用

となりました。家賃の滞納が発生する懸念はほぼなくなっています。

また、最近のコロナ禍では倒産や廃業が相次いでおり、失業者が急増しています。生活保護を受給されていない方でも家賃を滞納する方が増えているのが実態です。

オーナーの主張その2.孤独死される、または終の棲家にされる懸念がある
国民年金や厚生年金の支払を怠っていたことから年金の支給を受けられない高齢者、または病気のために生活保護を受給されている方は孤独死する可能性が高く、そのようなことになれば事故物件になるとして、生活保護受給者の入居を認めないオーナーが多くいます。

しかし、病気や老衰により室内で入居者が死亡する事案が発生した場合でも、直ちに事故物件になるわけではありません。事故物件とされるのは、死亡後、発見される迄に日時を要したために室内が汚れた場合です。

お亡くなりになられた直後に誰かに発見されたことから室内が汚れなかった場合、室内で誰かに看取られてお亡くなりになった場合、または病院に搬送されて病院でお亡くなりになった場合は、その部屋は事故物件とは言えません。

これらの事実があった場合に、その内容を入居希望者に告知するべきかについては様々な見解があります。しかし、事故物件ではありませんので、事故物件であるとする告知は不要です。

普段から警備会社や鉄道会社による見守りサービスを活用し、具合が悪くなった時点で病院に搬送してもらうなどの措置をしてもらうことにより、病気等による室内死亡の事案は非常に少なくなります。また、管理会社等から定期的に連絡を入れることについて、予め入居者の了解を取り付けておくことにより、事故物件になることを防げます。

最近ではコロナ禍であることから、倒産や失業による若者の自殺が増えつつあります。若くて健康な方でも室内で自殺した場合は事故物件になります。「事故物件になる可能性が高いのは生活保護の受給者」とは限らなくなっています。

オーナーの主張その3.生活保護で支給される家賃では安すぎて貸せない
東京都23区内の場合、単身者における住宅扶助の上限は53,700円です。狭い物件や風呂なしの物件では、支給額は更に低くなります。

筆者の事務所がある、目黒区内における風呂付き単身者用物件の家賃は、最低でも7万円(広さ約20㎡の1Kで、ある程度の快適性がある場合)はします。53,700円で貸してくれる奇特なオーナーはほとんどいません。

また、生活保護受給者が、自分の懐からいくらか追加して家賃を支払うことは許されていませんので、生活保護受給者の入居を認めることは事実上困難です。

東京都、特に目黒区や山手線の内側の各区では、支給される家賃が安すぎてお話にならないのが実情です。これらの地域では、単身者の支給額上限を53,700円に定めることは不合理です。行政に検討してもらう必要があると思います。

オーナーの主張その4.生活態度がだらしない方が多い
「生活態度がだらしないから生活保護受給者になったのであろう」とお考えになるオーナーが多いのですが、最近では生活保護受給者の全てに該当するとは言えなくなっています。

私の会社に来られた方の中に、夫婦で経営していた会社が倒産したことから生活保護を受けることになった方がいらっしゃいます。運転資金の融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人を引き受けていたことから全財産を取り上げられた上に破産宣告をされたそうです。会社倒産の原因は、取引先の倒産(連鎖倒産)です。

個人事業主として建築設計事務所を運営していたものの病気になり、6か月もの間入院したことから住宅ローンの支払いが滞り、自宅を競売にかけられた方がいます。競売後も多額の残債が残ったために自己破産するしかなく、さらに病気の後遺症があることから就職が難しく、生活保護を受けることになりました。この方も、私の会社で相談を受けています。

生活保護受給者の中には確かに生活態度がだらしない方がいますが、このような方は生活保護を受けていない方の中にもいます。不運が重なったことが原因で生活保護を受けている方は多くいらっしゃいます。

今後、コロナ禍の推移によっては倒産や廃業が急増し、失業者も急増します。当然ですが、生活保護の受給者も急増します。

「生活保護を受ける理由は生活態度がだらしないから」という考えは、過去のものであると言えます。