困った相談(その21、木造アパートを「ペット飼育可」にできるか)

 単身者向けの木造賃貸アパートを所有しているオーナー様からの相談です。相談内容は、コロナ禍の長期化により空室が増えているので「ペット飼育可」の物件に転換して早く満室にし、家賃も上げたいというものです。

1.自身が所有するアパートはペット飼育不可にしていた。 
2.コロナ禍が長期化したことにより退去が続出し、家賃収入が激減している。 
3.今後行う入居者募集に際しては「ペット飼育可」として家賃を高く設定したい。 
4.早く満室にし、できれば家賃を3割程度上げたいが可能か。

 ペットの躾がキチンと行われていれば問題は少ないのですが、ペットのいわゆる「落とし物」が床下にしみ込むことが多く、酷い場合は床下の構造材にまで達することがあります。木造アパートの場合、構造材に達すると、建物の寿命を早めることになります。 

 構造材に対する影響を防ぐためにはビニールシートで覆うなどの対策が必要になりますが、床下を開ける工事が必要です。床材がフローリングの場合、高額な工事費用が発生します。

 それにペット飼育を認めると必ず室内にペット臭が付着します。ペット臭を効果的に除去できる消臭剤は開発途上であり、完全な消臭はできません。このため、入居者が退去する度に天井クロスおよび壁クロスの貼り替え、畳の交換、フローリング床等の床材の全面貼り替え等が必要になります。敷金を高めに設定しないと採算が合いません。

 ペットの毛に対するアレルギーをお持ちの方、およびペット臭が嫌いな方は一定数存在します。このため、「ペット飼育可」に転換すると既に入居している方が退去する恐れがあります。 

 「ペット飼育不可」であることから現在入居している方が引越を希望した場合、引越に要する費用および迷惑料を支払わなければならなくなります。金額は引越業者に支払う運送費、新居に入居するための仲介手数料、礼金の他に6か月~1年分の家賃相当額が迷惑料として必要になります。

 家賃を値上げできるかですが、東京都区内の場合は坪単価千円程度の上乗せが出来る程度でしょう。つまり、1割程度の値上げは可能かもしれませんが、3割も値上げすることは無理です。

 「ペット飼育可」にするためには敷金を多く徴収する必要がありますが、入居先を探している方は初期費用に敏感です。「敷金2~3か月」に設定することになると思いますが、あまり高くすると入居意欲が減退します。

 ペットを飼育しない方が入居する場合は敷金1か月、または敷金ゼロにすることも一応は考えられますが、ペットを飼育しない方が「ペット飼育可」の物件に入居することはかなり稀です。ペットを飼育しない方はペットの鳴き声やペット臭を気にするからです。

 「ペット飼育可」にすると建物の寿命が短くなることが多く、退去した際のリフォーム費用は「ペット飼育不可」の物件の場合よりも高額になることが大半です。敷金だけでは賄えないことがよくありますが、退去する入居者に敷金で賄えない金額を請求しても「納得できない」として支払に応じない方がいます。この場合はオーナー様の持ち出しになることがあります。

 オーナー様は「ペット飼育可」に転換することにより「早期に満室にすること」を期待しますが、いわゆる富裕層が多く居住しているエリアを除き、「ペットを飼育する単身者」は「ペットを飼育しない単身者」よりもかなり少ないです。 

 それに富裕層の方が賃貸住宅を探す場合は木造アパートではなく、鉄筋コンクリート造の賃貸マンションを選択します。このため、木造アパートを「ペット飼育可」にしても、早期に満室にすることはあまり期待できません。

まとめ

  上述した多くの理由により木造アパートを「ペット飼育可」にすることはお勧めできません。 「ペットの飼育を認めれば早く満室になる」とお考えになるオーナー様がとても多いのですが、期待通りになることはほとんどないのが実情です。

 「ペット飼育可」にすることにより建物の傷みは早く進行し、多額のリフォーム代が必要になります。既に入居している方への補償も必要です。さらに家賃を大きく値上げすることは困難です。

 木造アパートを「ペット飼育不可」の物件を「ペット飼育可」に転換することはマイナスの効果しかないと思われるのでお勧めできないのが現状です。

 ちなみに、鉄筋コンクリート造の建物の場合は構造材を傷める恐れが少ないです。予め「ペット飼育可」の仕様(屋外にペット専用のトイレを設けるなど)にすることを予定して新築した物件にすれば、やや高めの家賃および敷金を設定することが可能です。しかし、この場合でもペット臭の問題があり、付近の家賃相場よりもかなり高額な家賃を設定することは困難です。 

 「ペット飼育可」に転換してもオーナー様の期待通りにならないことを説明しなければならないのですが、その理由を細かく列挙して説明しなければ納得していただけないので骨が折れる「困った相談」です。