賃貸物件の家賃と収入とのバランスについて

 入居者募集中の賃貸物件を掲載したポータルサイトを御覧になられた方が不動産会社を訪問し、借りたい旨を申し出られても、家賃と収入とのバランスが合わないことからやむを得ずお断りさせていただく場合があります。

 来訪されたお客様、およびオーナー様の双方に対して大変心苦しいです。お客様はその物件への入居を希望されているので期待を裏切ることになりますし、オーナー様は入居者を1日でも早く決めてもらいたいと思われていることを十分に承知しているので、入居できない旨を伝えることは辛いです。

 しかし、借主が家賃を滞納した場合のことを考えると仕方ありません。家賃を滞納したことから賃貸保証会社が代位弁済すると滞納者のデータベースに記録されます。するとこの借主が退去して他の賃貸物件に転居しようとしても賃貸保証会社(家賃保証会社)が保証契約の引き受けを承認しないことから転居先が見つからない事態になります。

 また、オーナー様においても保証契約において定められている代位弁済を受けられる期間を経過すると家賃が入金しないまま居座られることがあります。

 家賃を支払うことなく居座る場合は明け渡し請求を求める裁判を提起することになりますが、裁判費用は高額です。賃借人に請求できますが無一文同然であることが多く、ほとんどの場合にオーナー様が全額を負担しなければなりません。

家賃と収入とのバランス

 賃貸保証会社が保証契約を引き受け、入居希望者が入居出来る場合の家賃と収入とのバランスはどの位なのかが問題になります。

 私の会社がある東京都目黒区では給与の金額からから源泉徴収される税金(所得税、住民税)、健康保険料、厚生年金を差し引いた、いわゆる「税抜収入が共益費を含む家賃の3倍以上あること」が目安とされているようです。賃貸保証会社は審査基準を公表しないので、あくまでも推測であることをお断りしておきます。

 なお、この目安はエリアおよび家族構成によりかなり異なります。例えば山手線の内側にあるハイグレードのワンルームマンション(月額家賃50万円超)では税抜収入が共益費を含む家賃の2.5倍以上あることが目安のようです。

東京都目黒区等の城南エリアにおいて、単身者用の賃貸物件における空室率が高い理由

 私の会社がある東京都目黒区では、そこそこ快適に暮らせる単身者用のワンルームまたは1Kのマンション・アパートにおける月額家賃(共益費込)は10万円前後です。この月額家賃10万円の部屋を借りる場合、税抜の月収が30万円あることが必要であり、入居が認められるためには概算の税込月額収入が40万円以上なければなりません。

 夫婦二人で暮らせる2DKのマンション・アパートの場合、快適に暮らせる物件における月額家賃(共益費込)は15万円前後になります。すると、税抜の月収が45万円あることが必要であり、概算の月額収入(世帯収入)が65万円以上でなければ入居が認められません。

 コロナ禍が長期化したことから多くの企業が倒産、廃業に追い込まれています。解雇、賃金カットをされた方が激増していることから上述した税込月収40万円以上を稼ぐ単身者、または月収65万円以上を稼ぐ共働き夫婦はかなり少なくなっています。

 特に「月収40万円以上を稼ぐ単身者」は激減しています。このため東京都目黒区では単身者用のワンルームおよび1Kの賃貸物件における空室が激増しており、4月を迎えても空室のままである物件が数多くあります。

 「家賃を値下げすれば良いではないか」と思われるかもしれませんが、このエリアでは土地の評価額が高額であることから固定資産税および都市計画税の税額が高額です。大きく値下げすると税金すら支払えず、物件を維持できなくなります。それに収益用不動産の価値は利回りで決まることから、家賃の値下げは物件価値の低下に繋がります。

 オーナー様としては、安易に家賃の値下げに踏み切れないのが実情です。