困った相談(その14、賃借人が行方不明になり家賃を滞納)

 賃貸物件のオーナー様から、様々な相談が持ち込まれます。管理業務を管理会社に任せている場合は管理会社が対応しますが、どこの管理会社にも管理を委託していない場合に相談されます。

 本日紹介する事案は賃借人が突然行方不明になり、家賃が滞納され始めているという相談です。

 オーナー様の多くは「部屋のカギを開けて室内を確認したい」と言われますが、直ちに行ってはいけません。

 特に単身者の場合、体調不良により室内で倒れている場合があります。最近はコロナ禍であり、賃借人が室内で寝ていることがあります。室内の様子がわからない場合は警察に相談し、警察官立ち会いの上でカギを開けることをお勧めします。

 絶対に避けたい事態ですが、万が一賃借人が室内で絶命していても警察官が立ち会っていればオーナー様が犯罪に関わったという嫌疑をかけられずに済みます。

 家財が残されている場合、オーナーがこれを搬出することは違法な自力救済行為になりますので絶対に行ってはいけません。

 室内に家財がなく、ほぼ完全に空の状態である場合でも、安心してはいけません。侵入者が賃借人に危害を加えて拉致し、証拠を残さないために全ての家財を室外に搬出していることがあります。警察官立ち会いの上でカギを開けた際に室内に血痕などの痕跡が少しでも見つかれば捜査対象になります。この場合の対応は警察の指示に従うことになります。

 室内に賃借人がおらず、犯罪行為が行われた痕跡が何も見つからない場合、次に行うことは近隣の部屋に入居している方に対する聴き取りです。金銭の取り立て目的で誰かが訪問して怒号が飛び交っていたことがないか、引越業者が家財を運び出していたことがないか等を尋ねます。いずれかが確認された場合は、借金を踏み倒す目的で逃亡した可能性があります。 

 室内が空の状態でも家賃が入金されていれば、賃貸借契約は有効に存続しています。この場合に賃貸人が一方的に賃貸借契約を解約することはできません。

 しかし、家賃が継続して滞納された場合は法的手段による解決を図れます。滞納が3か月以上継続した場合、オーナー様は賃貸借契約を解約して明け渡し請求を求める裁判を提起できます。賃借人の居所が不明である場合でも訴状は公示送達され、裁判は粛々と行われます。

 明け渡しを認める判決を得たら、強制執行の手続きに入ります。室内が空室に近い状態の場合は執行官の判断により、貸室の占有権が賃借人から賃貸人(オーナー)に既に移転していると見做されます。この場合は、次の入居者を直ちに募集できます。 

 それ以外の場合は強制執行の「断行」が行われる際に室内の家財を全て搬出することが認められます。家財は執行補助者が管理する倉庫に搬入され、1か月間保管された後に動産競売にかけられます。動産競売を通じ、オーナーは極めて安い金額で家財を買い取り、最終的には廃棄処分を行います。

  その後は必要に応じて室内をリフォームし、次の入居者を募集することになります。