困った相談(その13、賃貸借契約の更新時に連帯保証人が「辞めたい」と主張)

 「賃貸借契約の更新において、連帯保証人が『極度額があまりにも大きいので連帯保証人を辞めたい。』と言ってきました。どのように対応したらよいでしょうか。」という相談を受けることがあります。極度額とは、連帯保証人に請求される可能性がある最大の金額のことを言います。

 連帯保証人を引き受けたことにより全ての財産を失う方が増大し、大きな社会問題になりました。賃貸借契約の連帯保証人を引き受けた後、賃借人(本人)が自室に放火し、建物を全焼させた事案では連帯保証人が数千万円もの損害賠償を請求されました。 

 このため、令和2年4月より改正民法が施行されました。改正内容の中で大きなものは、連帯保証人になるための要件が厳格化されたことです。連帯保証人になろうとする方には極度額を通知し、その極度額を記載した書類(連帯保証人引受承諾書、賃貸借契約書)に署名、実印の押印を求め、印鑑証明書の提出を求めなければならなくなりました。

 賃貸借契約の更新も同様であり、極度額が記載された連帯保証人引き受け承諾書や賃貸借契約書に、連帯保証人が署名して実印を押印してもらわなければならなくなりました。 

 連帯保証人としては、仮に代位弁済しなければならない場合でも数ヶ月未満の滞納家賃相当額であると考えて連帯保証人を引き受けることが大半であると考えられます。賃借人(本人)の不法行為に対する損害賠償責任まで負わされることは全く認識していない方が大半であると思われます。

 このため、連帯保証人になるための要件を厳格にし、最大の請求金額(極度額)を通知して書面に記載することが義務づけられました。賃貸借契約の実務では、極度額を「家賃および共益費の合計額の2年分」とすることが多いです。

 ところが、「2年分の家賃」は大きな金額になることがあります。家賃8万円の部屋における2年分の家賃は192万円です。連帯保証人にこの金額を提示すると、連帯保証人の中には引き受けを拒絶される方がいらっしゃいます。

 特に、賃貸借契約の更新において大きな問題が発生しがちです。賃貸借契約を締結する際には連帯保証人を問題なく引き受けてくれた方が、極度額が大きいことを理由として更新の際に引き受けを拒否する問題です。

 拒否した理由が「極度額が大きすぎる」というものであり、極度額が記載された連帯保証人引き受け承諾書や賃貸借契約書に署名捺印することを拒否する場合、連帯保証契約を有効に更新することができません。

 この場合における対応ですが、以下の二つのいずれかになると思います。

・連帯保証人を引き受ける他の方を探してもらい、連帯保証契約を引き受けてもらう。
・賃貸保証会社(家賃保証会社)と賃借人との間に保証契約を締結してもらう。

 通常は、後者になることが多いと思われます。ここで問題になるのは、連帯保証人を新たに引き受けてくれる方が見つからず、賃貸保証会社(家賃保証会社)が保証契約の締結を拒否した場合です。クレジットカードの支払遅延などがあると、賃貸保証会社(家賃保証会社)は保証契約の締結を拒否します。

 この場合、オーナー様には気の毒ですが、連帯保証人が誰もおらず保証契約も締結されない状態でも賃貸物件を貸し続けるしかありません。賃貸借契約の更新後は、家賃が滞納されても代位弁済を受けられないことになります。

 借地借家法の規定により、賃貸借契約を締結して入居させた以上、賃貸人および賃借人相互の間における信頼関係が破壊されない限り、賃貸人側から賃貸借契約を解約することはできません。契約更新の際に連帯保証人を引き受ける方がいなくなった場合も、それだけの理由で賃貸借契約を解約することは認められません。

 収益用不動産のオーナー様におかれては困った問題であり、相談を受ける不動産会社においても有効な解決法を提示できないことがあるので「困った相談」であると言えます。