困った相談(その5、心理的瑕疵を隠して売却、または貸したい)

 人が死亡した不動産物件は、死因が殺人または自殺の場合はもちろん、自然死の場合でも特殊清掃が必要になった物件は「心理的瑕疵」がある物件と扱われます。

 当該不動産が売買される場合は心理的瑕疵の存在を告知し、重要事項説明の際に説明しなければなりません。また、当該不動産を賃貸物件として貸し出す際は、事案の発生時(または発覚時)から概ね3年間は心理的瑕疵が存在する旨を告知し、その旨を重要事項説明の際に説明しなければなりません。

 ご承知の通り、心理的瑕疵がある物件を貸す場合は賃料をかなり安くしないと借主は見つかりません。売却する場合は売却価格をかなり安くしないと買い手はなかなか見つかりません。

 このため、賃貸物件のオーナー様および不動産の売主様の中には「心理的瑕疵の存在を告知しないで欲しい。」と言われる方がたまにいらっしゃいます。その多くは「幽霊が存在するわけがない。法律が間違っている。おかしい法律は無視して構わないはずだ。」等と主張します。

 しかし、心理的瑕疵が存在する物件であれば借りたくない、または買いたくないという方が多い(7割以上でしょう)ので、心理的瑕疵の存在を告知せずに取引をした場合、仲介をした不動産会社およびオーナー様は損害賠償および慰謝料請求を内容とする民事訴訟を提起されることになります。

 これとは別に、心理的瑕疵を告知せずに不動産売買を行った場合は刑法が規定する詐欺罪が適用されることがあります。

 宅地建物取引業法は、心理的瑕疵がある物件についてはその旨を告知しなければならないことを定め、違反した場合には罰則があります。重要事項説明の際に告知義務があるのに告知しなかった場合、その不動産会社は宅地建物取引業法等により処罰されます。事務停止処分になることが考えられ、違反回数を重ねた場合は宅地建物取引業免許の取消処分を受けることがあります。

 このため、まともな不動産会社(ほとんどの不動産会社が該当すると思います)では「心理的瑕疵の存在を告知しないで欲しい。」と強硬に言われた場合は「法令違反になりますので当社ではお受け致しかねます。」等と回答することになります。

「幽霊は存在しない。法律が間違っている。」と言えるか

 不動産取引に数多く関わると、現代科学では説明できない不思議な現象に遭遇することがあります。「幽霊」が原因なのかはわかりません。科学的な説明はできませんが「幽霊を見た」、「存在を感じた」と言われる方は数多くいらっしゃいます。

 以下、私の周りで実際に発生した事案です。

 都内のある賃貸マンションにおいて死亡事案が発生し、これが原因で全ての入居者が退去しました。オーナー様は全ての部屋について内装をフルリフォームし、心理的瑕疵があることを隠し、新たな入居者を募集することを不動産仲介会社(私の会社ではありません)に依頼しました。オーナー様は神仏や霊の存在を信じていないため、お祓い等は一切しなかったとのことです。

 繁忙期であったことからすぐに満室になりました。ところが、怪奇現象が頻繁に発生することを理由として全ての入居者が半年以内に退去しました。

 オーナー様は「幽霊は実在しない。入居者が退去した理由を全く理解できない。何も起きないことを証明するために1週間程度生活してみる。」と言い、着替えや布団などを持ちこみ、賃貸マンションの一室で一晩過ごしました。

 その翌朝、オーナー様が本業の仕事場に現れず、携帯電話も通じないので家族が心配になり部屋を訪問したところ、オーナー様は半狂乱の状態で手が付けられず、精神が破壊されていて何も理解できず、会話ができない状態に陥っていたとのことです。直ちに救急車で病院に搬送されましたが、そのまま半年以上入院しました。

 オーナー様が怪奇現象または心霊現象に遭遇して発病したと断定する証拠は何もありません。しかし、突然半狂乱になり、精神が破壊されて半年以上も入院する事態はどう考えても異常です。何かが起きた可能性がありますが、それがいわゆる怪奇現象または心霊現象なのかはわかりません。

 オーナー様は退院しましたが、何が起きたかは一切話したくないとのことであり、上述した内容以外の詳細は現在も不明です。この事案が現に発生していることから、私は「幽霊は存在しない。法律が間違っている。」とする意見に対し、全面的には賛成できないでいます。

 宅地建物取引業法は、心理的瑕疵がある物件についてはその旨を告知しなければならないことを定め、違反した場合には罰則が適用されます。現在の法制度には毀誉褒貶があります。しかし、心理的瑕疵が存在する物件であれば借りたくない、または買いたくないという方が多いこともあり、現在の法制度が維持されても仕方ないと考えます。

※お断り:不動産会社には守秘義務があります。また、プライバシーを尊重する趣旨から本人の住所・氏名、現場の所在地、事案の詳細等に関する質問には一切回答しません。本事案に関する取材依頼は全てお断りします。