困った相談(その6、キャピタルゲインが大きい収益用不動産が欲しい)

 収益用不動産を購入したいというお客様から「何年か保有した後により良い物件を購入したい。今後必ず大きく値上がりする物件が欲しい。」と相談されることがあります。

 収益用不動産に関する多くの解説本に「大きなキャピタルゲインを得られる物件を購入するべきである。」と書いてあります。

 キャピタルゲインとは、不動産を売却した際の価格から購入した価格を差し引いたものであり、「大きなキャピタルゲインを得られる物件」とは大幅な価格上昇を期待できる物件のことです。

しかし、東京都区内におけるキャピタルゲインを期待できる収益用不動産は、新型コロナウイルスの蔓延および長期化によりほぼ消滅したと言えます。多くの不動産解説本に書かれている、キャピタルゲインに関する内容は東京都区内、および川崎・横浜の海側エリアではあてはまらなくなっています。

 新型コロナウイルスが蔓延したことから緊急事態宣言が発令され、飲食店に営業自粛要請が出され、大半の店舗における客数が激減しました。資金に余裕がある経営者は早めに損切りをして飲食業から撤退し、収益用不動産を猛烈な勢いで購入し始めました。

 収益用不動産の運営は、いかにも不労所得が得られそうなイメージがある(実際にはそのようなことはありません)ことも収益用不動産の購入に拍車をかけました。飲食以外の業種においても事業を縮小し、予算を収益用不動産の購入につぎ込みました。

 このために収益用不動産の価格が急騰し、一部では奪い合いの状況になりました。その結果、売主が強気になり売却価格をつり上げました。東京都区内では表面利回り3.5~5%未満の物件が大半になり、高利回りの物件はほとんどなくなりました。

 コロナ禍になる前は「実質利回り6.5%以上」というのが収益用不動産の購入を決定する際における要件の一つとされていました。実質利回りが6.5%以上になるためには、表面利回りが8%超であることが必須です。しかし、現在はこの要件を満たす物件がほとんどなく、不動産業に携わらない一般の方が購入することは極めて困難です。

収益用不動産のキャピタルゲインを決定する要素は利回りおよび利便性

今後、利回りの向上を期待できるか

 大きなキャピタルゲインを得るために必要な要件の一つは、購入後に利回りが大きく向上することです。収益用不動産の価格は利回りで決定される部分が大きいです。利回りが向上する為には労働者の賃金が大きく上がり、需要と供給とのバランス効果により家賃の値上げが社会的に許容される経済情勢になる必要があります。

 ところが現在はまだコロナ禍が継続しており、最近の急激な円安により諸物価が高騰し、日本経済は破壊される寸前の状況です。ロシア・ウクライナ間の戦争だけではなく、中国・台湾間および中東でも戦争が始まる恐れがあります。このような世界情勢では企業は内部留保に走り、積極的な投資を手控えます。

 結果として賃金は上昇せず、家賃を値上げできる状況になりません。現時点で家賃を強引に値上げすると需要と供給とのバランス効果により入居者が退去し、賃貸住宅の運営が成り立たなくなります。この経済状況があと何年続くかは、全くわかりません。

今後、利便性が向上すると期待できるか

  大きなキャピタルゲインを得るために必要な要件の二つ目は、物件の利便性が向上することです。利便性が向上することにより家賃の値上げが可能になり、利回りも向上します。

 利便性の向上に大きく寄与するのは鉄道の新駅開業、および大型商業施設等の開業です。開業することにより利便性が大きく向上するので家賃の値上げが可能になり、不動産価格が上昇します。

 しかし、 東京都23区内、川崎・横浜の海側は開発され尽くした感があります。東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴う開発事業は既に終了しました。相模鉄道から都内に繋がる東急線の新線および新駅が建設中ですが、開業時期は2023年春頃を予定しており、沿線の不動産価格は既に上昇しています。

 その他には東京都23区内、川崎・横浜の海側では東京メトロ南北線の支線(白金高輪~品川)建設、横浜市営地下鉄ブルーラインの延伸、東京メトロ有楽町線の延伸、羽田空港アクセス線の建設、新空港線(蒲蒲線)の建設等が計画されていますが、実際に電車が走るのは2030年以降になると思われます。南北線の支線における途中駅は設けられないようです。 

 また、コロナ禍が継続している現状では新規に大型商業施設の出店を計画する企業はほとんどありません。このため、大型商業施設の建設による利便性向上も期待薄です。

まとめ

 東京都23区内、川崎・横浜の海側に立地する収益用不動産は、キャピタルゲインを期待できません。国内の景気が回復して労働者の賃金が上昇するまで、キャピタルゲイン狙いでこのエリアにおける収益用不動産を購入することはお勧めしません。

 大きなキャピタルゲインを得たい場合は郊外(東京都内多摩地区、千葉県、埼玉県等)または関西圏に立地する収益用不動産の中から探すことをお勧めします。