収益用不動産はレジ・事業用ビルのどちらが有利か

 収益用不動産として代表的なものは1棟もののマンション(レジデンス、またはレジ)、アパート、事業用ビルです。ある程度の資金がある方から、いずれを購入するのが有利かについて尋ねられることがあります。

 少し前にこのブログに投稿したとおり、都心の賃貸物件における空室率が急上昇しています。このため、満室又はそれに近い状態の物件が売り出されることは少なくなっています。

 満室またはそれに近い状態の物件を購入できないという理由で、「事業用ビルを紹介して欲しい」と依頼されることがあります。通常、事業用ビルは国道などの交通量が多い道路沿い、または駅近に建っています。そして満室またはそれに近い状態で売り出されていることがよくあります。

 事業用ビルは、レジデンス(マンション)よりも入居率が高いことが多いので、「事業用ビルの方が利回りが良いのではないか」と質問されることがあります。

 しかし、収益用不動産の運営を始めたばかりの方が事業用ビルの運営を行うことはかなり困難です。利回りばかりに注目してはいけません。その理由を以下に書きます。

1.テナントが倒産した場合、残置物の処理が煩雑

 テナントが飲食店である場合は排気ダクト、業務用大型冷凍庫や冷蔵庫、厨房設備を残置することがよくあります。賃貸借契約書に退去時の原状回復義務を記載していても、テナントが無一文同然になった場合には原状回復費を捻出できず、放置することがあります。

 テナントが破産宣告を受けると破産法の定めにより店舗の立ち入りが禁止され、店舗内に手を付けることができなくなります。店舗の閉鎖が長期化すると、事業用ビルの運営が破綻する原因になります。

 破産処理が進行し、店舗内の物品に関する所有権が放棄された場合でも、排気ダクトや大型冷凍庫・冷蔵庫、厨房設備の撤去には多額の費用を要します。借主から預かっている保証金だけでは賄えないことが多く、最終的には建物のオーナー様が支出しなければならなくなります。

2.エレベーター、エスカレーターの維持費が多額

 点検および設備維持に多額の費用が発生します。特に建物外から多くのお客様を招き入れる商業施設では、エレベーターの故障は許されません。

 通常、エレベーターは20~25年毎にリニューアル(更新)が必要になります。建物の階数によりますが、費用は1基あたり1,200~1,500万円超になります。このため、エレベーターの更新時期が近づいている事業用ビルや商業施設が大幅に安く売られていることがありますが、更新時期が近づいていることを告げずに売買契約が締結される事案が散見されるので注意が必要です。

3.法人の合併、売却等により業態変更が発生する

 物販店や軽食喫茶店として開業した店舗の運営会社が他の会社に吸収され、業態の変更が行われたことから中華料理店や焼き肉店に転換することがあります。 

 賃貸借契約書において無断転貸を禁止している場合でも、法人の吸収合併等および業態変更に対しては無力であることが多く、「店舗の業態を変更する際は許可を得ることを必要とする」等の特約がなければ業態の変更を是認しなければならないことがあります。

 企業の吸収合併が繰り返し行われると、現在の借主が誰なのかを把握できなくなることがあるのでこれも注意する必要があります。

4.空きが生じると、次に入居するテナントが現れにくいことが多い

 空室期間が長期化すると賃料を得られないので、ビル運営が破綻する原因になります。退店などで店舗に空きが生じた場合、コロナ禍であることから次に入居するテナントがなかなか現れないことがあります。

 コロナ禍の長期化により、多くの企業において新店舗を開設する意欲がなくなっています。

5.警備および清掃の委託費が多額になりやすい

 事業用ビルの場合、警備および清掃を外部業者に委託することが必要です。特に不特定多数が出入りする商業ビルでは営業時間中に警備員を配置し、共用スペースを清掃する係員が必要です。建物が大きいと費用は巨額です。

6.総じて実質利回りが低い

 事業用ビル運営における実質利回りは、レジデンスよりも低いのが通常です。

 利回りが低い理由はテナントが倒産した際に費用が発生すること、テナントが退去すると空室期間が長期化しやすいこと、エレベーターなどの維持費が高額であること、警備・清掃などを委託する費用が発生すること等にあります。

結論

 レジデンスと事業用ビルとではどちらが有利(利回りが高い)かというと、レジデンスに軍配が上がります。それにオペレーションは、レジデンスの方がはるかに簡単です。

 事業用ビルの運営は賃貸物件の運営経験を積んだ熟練者向きです。表面利回りが良好に見える場合でも、実質的な利回りは相当に低くなることが多いです。