事業用ローンで新築収益物件を購入するのはオワコンか

 このブログでは過去に何回か投稿していますが、新型コロナウイルス感染症の流行による飲食店などの業態変更、「老後は2,000万円が必要」というフレーズの一人歩き、相続税対策のために1棟マンションおよび1棟アパート等の収益用不動産に対する需要が高まり、都心では収益用不動産の建設ラッシュが始まりました。

 収益用不動産を新築する際は古い建物の解体、土地測量、建物の設計、工事業者の決定、建築確認申請を受けた上で建設を始めます。建設が終わり、電気・ガス・水道設備が開通したところで完成検査を受け、その後に賃借人に入居してもらいます。

 建物の規模により異なりますが、RC造3~4階建の建物の場合は古い建物の解体から賃借人の入居開始までに1年~2年を要することが多いです。

 都心ではコロナ禍が長期化しそうであるとの風聞が流れた2020年後半頃から1棟マンション等の建設が始まりました。そしてこの記事を投稿している2022年の後半くらいから多くの賃貸マンションおよび賃貸アパートが稼働し始めています。

都心の場合、金融機関が融資に慎重になり始めている

 コロナ禍の長期化による海外工場の閉鎖、ロシアーウクライナ戦争、急激な円安(というか異様なドル高)により建築資材の価格が上昇しました。特に材木、キッチンユニット、浴槽、トイレ用部材等の水回り部材の供給量が激減し、価格が大きく上昇しました。

 物件により異なりますが、建築費はコロナ禍になる前の20%~30%以上も増大しました。しかし、住宅地における家賃の相場はコロナ禍になる前とあまり変わっていません。家賃を決定する大きなファクターは利便性と人気ですが、賃金動向も大きく関係します。利便性が良好であり人気のあるエリアでも、労働者の賃金が低いままだと家賃相場は上がりません。

 「失われた30年」というフレーズのとおり、日本人の給与水準は30年以上ほとんど上昇していません。家賃相場は新興住宅地、新駅、新設された大型商業施設の周辺を除き、あまり上昇していません。それにもかかわらず建設費が大きく増大しました。

 さらに都心では収益用不動産が短期間に激増したことから物件相互間の争いが激しくなり、入居者を物件間で奪い合う状況です。今後は少子化が進むことから利便性が良好であり、かつ人気があるエリアの物件でなければ空室率はさらに増大することが避けられません。

 空室率の増大は賃貸住宅経営の破綻に直結します。このため、金融機関は収益用不動産の新築案件に対する融資に慎重になり始めています。建設予定地の利便性が良好で人気があるエリアであり、さらに採算が合わなければ融資が承認されにくくなっています。承認されても「融資する金額は物件価格の半額以下」等の条件がつくことがあります。

採算性

 具体的には利回りが問題になります。都内で土地を購入してRC造で収益用1棟マンションを新築する場合、その1棟マンションにおける表面利回りは3.0~3.5%前後しかありません。山手線の内側では表面利回り2%台前半の物件が出回り始めています。中古物件の表面利回りは4.5~5.5%なので、新築物件は採算性の面で劣ります。

 通常、事業用ローンの利率は年2.0~3.5%前後ですが、個人が初めて利用を申し込む際には年3%前後を提案されることがよくあります。金利を2%前後までに下げたい場合は自宅、国債、その他の資産を担保として差し入れることを求められるのが通常です。

 事業用ローンの利率を2%台に下げることに成功しても家賃収入が低く、さらに空室率が高ければ修繕費や固定資産税、都市計画税等を支払えません。現在、東京都23区内における空室率の平均は15%にまで上昇しており、千代田区、中央区、目黒区では20%を超えています。新築物件の空室率は低めですが、人気のあるエリアでなければなかなか満室にならないことがあります。

事業用ローンを利用した新築物件の購入はオワコンか

 表面利回り3~3.5%前後の物件を購入する際に、購入価格の半額以上に対し利率2.5~3%の事業用ローンを充当する行為は狂気の沙汰といえます。 

 以前は新築でも高利回りの物件が多かったので、高収入の若いサラーリーマンが事業用ローンを利用して新築マンションを購入し、賃貸住宅の運営を副業として行っていました。物件を購入する際には物件価格の8割~9割以上を事業用ローンでまかなうことがよく行われていました。

 新築物件を購入する理由は設備の故障頻度が少ないので手間がかからないことと、入居者が退去しても次の入居者がすぐに決まることが多いので満室にしやすいというものです。

 しかし、空室率が高いエリアでは新築物件または築浅の物件でも入居者退去後の次の入居者がなかなか決まりにくい状況です。それに表面利回りが著しく低下しているので、賃料収入だけでは修繕費および税金を支出できず、赤字経営を迫られます。大規模修繕のための資金を積み立てることも困難です。

 新築の収益用物件を購入する場合は最低でも半額、可能であれば全額を現金一括で支払うことにより購入することが求められる時代になったのかもしれません。

 物件価格の半額を超える金額を事業用ローンとして借り入れ、新築物件を購入することはお勧めできません。