困った相談(その3、無断転貸され、反社会的勢力が利用している疑い)

 「自分が所有する賃貸物件に若夫婦が入居を申し込み、入居を認めた。ところが1か月もしないうちに人相の良くない数名の男が出入りしている。気味が悪いとして近隣の部屋からクレームが来る。怖いのでこの部屋の管理を引き受けて欲しい。」という相談です。これも困った相談であると言えます。

 オーナー様がこの若夫婦を入居させた不動産会社(仲介)に相談したところ、「怖いからそのままにしましょう。私の会社では管理しません。」と言われ、逃げられたとのことです。このため、私の会社に来られました。あり得ない対応です。

 何らかの犯罪を行う拠点として賃貸物件を借りる場合、単身者の若者や若夫婦を利用して申し込むことがよくあります。入居が認められた後に入居者が入れ替わり、犯罪の拠点にするわけです。

 賃貸物件を、振り込め詐欺を行う集団の「掛け子」の活動拠点として利用する、栽培が違法とされる植物を栽培する、産業廃棄物を一時的に保管する倉庫代わりにする、等を行う目的で借りる者がいます。

 不動産会社を通して賃貸借契約を締結する際は、入居者の属性を調査します。連帯保証人を立てる場合は連帯保証人の身元および属性も調査します。

 しかし、令和2年4月に施行された改正民法により連帯保証人を立てる際の要件が厳格化されたため、東京都区内では多くの賃貸物件において入居者(賃借人)と賃貸保証会社(家賃保証会社)との間に保証契約を締結することが必須とされています。この場合、連帯保証人は不要とされることが多いです。

 犯罪集団の代わりに賃貸物件への入居を申し込む、いわゆる「サクラ」である若者や若夫婦の多くはヤミ金融などで多額の借金を抱えており、借金の減額または棒引きと引き換えに賃貸物件の入居申し込みを行うように指示されていることが多いです。 

 借金を抱えていることから家賃を滞納している者も多く、 賃貸保証会社(家賃保証会社)が利用する指定信用情報提供機関における、いわゆる「ブラックリスト」に登録されていることが多いです。賃貸保証会社から保証契約の締結を拒否される可能性が高いので、「サクラ」は賃貸保証会社(家賃保証会社)との間における保証契約の締結を避けようとします。

 相談者によると、連帯保証人は存在するものの、何回電話してもつながらず、現在の居所は不明とのことでした。犯罪集団の入居を未然に防ぐためには賃貸保証会社(家賃保証会社)の利用が有効です。

「怖いから管理して欲しい」、「穏便に済ませたい」等の発想は身の破滅を招く

 相談者(オーナー様)の要望は「怖いからこの部屋を管理して欲しい」というものです。犯罪の拠点として利用されている可能性がかなり高く、しかも第三者に無断転貸されている部屋を、不動産会社がそのままの状態で管理することはあり得ません。

 通常は、第三者に無断転貸されたこと、および目的外利用をされたことを理由として退去を迫るのが最も推奨できる解決方法です。「怖いからこのまま放置しよう」とか「家賃がキチンと入金されているのでこのままにしておこう」、「何もしないで穏便に済ませたい」という考えは、オーナー様の身の破滅を招くことがあります。

 所有している賃貸物件において異常事態が発生していると感じたら、早めに行動を起こすことをお勧めします。

 相談者は「何もしないで穏便に済ませたい」という考えがとても強く、「怖いから管理して欲しい。退去を求めると報復が怖いので何もしたくない。警察への相談もしたくない。管理だけ行って欲しい。」と強硬に言われるため、対応をお断りするしかありませんでした。

警察が踏み込むと...

 警察が犯罪拠点として室内に踏み込み、室内に居合わせた者を逮捕する事態が発生すると後始末が極めて大変であり、多額の費用を要します。

 犯罪に利用された物品は警察が押収しますが、犯人の衣服、その他の私物、食器、テーブルなどはそのまま置いていきます。所有権は犯人またはグループのリーダーにあるので、オーナー様といえども自ら残置物を移動させたり廃棄する行為は自力救済行為であり違法です。

 警察に出向き、所有権を放棄してもらえれば良いのですが「所有権はリーダーにあるので所有権を放棄できない。リーダーの所在はわからない。」と言われることがよくあります。また、警察が踏み込んだ際にたまたま外出していた犯人の私物が残されることがあります。逃亡することが多く、探し出して所有権を放棄してもらうことはほぼ不可能です。

 室内の物品を撤去するためには明け渡し請求訴訟を提起し、明け渡しを認める旨の確定判決を取得した上で強制執行を行ってもらうしかありません。強制執行が実行される迄には4か月~1年以上を要し、裁判および強制執行に関する費用が発生します。総費用は都区内の3LDKの場合で150万円以上になることがよくあり、しかもその間の家賃収入は得られません。

 これが原因で賃貸住宅の運営が破綻することがあります。繰り返しますが「怖いからこのまま放置しよう」とか「家賃がキチンと入金されているのでこのままにしておこう」、「何もしないで穏便に済ませたい」という考えは捨てるべきです。

※相談者および入居者のプライバシーに配慮し、事案の一部を脚色しています。