賃貸物件の賃借人が長期間行方不明、解約できるか

 「賃貸物件の賃借人が行方不明になり、困っている。どうしたらよいか。」と質問されることがあります。郵便受けに大量の郵便物やチラシが投函され、投函口からあふれている等で異変の発生を認識するオーナー様が多いです。そして「誰も住まないなら賃貸借契約をオーナー側から解約できないか。」とお考えになるオーナー様がいらっしゃいます。

 このような場合、賃借人が貸室内で倒れている、旅行中、意図的に行方をくらましている、事件に巻き込まれている等が考えられます。オーナー様が賃借人の携帯電話に電話をしても繋がらない(解約されている等)場合、合鍵で貸室の扉を解錠したくなると思います。しかし、オーナー様が単独でこれを行うのは悪手なのでお勧めしません。状況がわからないので、思いあたることを一つずつ解消させる必要があります。

 特に最近になり家賃の滞納が発生し、建物内に異臭がする等の場合は早急に対応する必要があります。この場合は合鍵で解錠して室内を調べる必要がありますが、警察官の立ち会いを求めることをお勧めします。

 入居者が亡くなられ、事件性ありと判断された場合、オーナー様が単独で解錠していると事件への関与が疑われる恐れがあるからです。

 入居者が室内におらず、室内で争った形跡がなく、家財が残されている場合は長期の旅行中かもしれません。また、室内に家財がほとんど残されていない場合があります。この場合は、意図的に姿をくらましているのかもしれません。警察官立ち会いの上で解錠した場合は元通りに施錠し、様子をみるしかありません。

 いずれの場合でも、この状況だけでオーナー様が単独で賃貸借契約を解約することは認められません。何日か後、配達物やチラシ等が郵便受けにがあふれてる状況が解消されれば、長期の旅行から帰ってきたことが考えられます。

 何週間か経っても郵便受けの状態が変わらない場合は、家賃の支払状況を確認します。家賃が支払われていれば、賃借人が貸室に戻る可能性があります。家財がほとんど残されていない場合も同様です。

 家賃が支払われていれば、借地借家法が定める「賃貸人および賃借人相互の信頼関係が破壊された」とは言えません。この場合にオーナー様が賃貸借契約を解約することは困難です。

 しかし、家賃の滞納が続くことがあります。3か月以上滞納が続くようであれば、「賃貸人および賃借人相互の信頼関係が破壊された」と言える状況になります。この場合、オーナー様は単独で賃貸借契約を解約できます。オーナー様が明け渡し請求訴訟を提起すれば、明け渡しを認める判決が下される可能性が高くなります。

 明け渡し請求を認める判決文が得られたら、強制執行の手続を行います。賃借人の個人的な事情に関わりなく、強制執行により貸室内の家財は全て取り除かれ、貸室がオーナー様に引き渡されます。かなりの日数を要し、相応の費用が発生します。しかし、賃貸借契約を合法的に解約し、引渡しを受けるために必要な手続です。

 ちなみに強制執行後に行方不明であった賃借人が現れても(強制)執行調書があれば心配ありません。執行調書には貸室の占有権がオーナー様に移転したことが記載されています。もちろん、家財を処分したことに対する損害賠償請求は、この執行調書により拒絶できます。