不動産を購入する際の手付金に関する詐欺に注意

 自宅を購入したいと思い、いくつかの物件を内見したところ、気に入った不動産物件があったので購入を申し込み、買付証明を提出しました。価格を少し値引きして欲しいと思ったので、買付証明には希望価格を書きました。その後、不動産会社の担当者から電話があり、以下のことを言われました。どのように対応するべきでしょうか。

【事例1】
 別のお客様から少し前に申し込みがありました。売主は、先に手付金を渡してくれたお客様と契約すると言っています。契約は1~2週間後ですが、購入したいのであればすぐに手付金を払う必要があります。今日、これから伺いますので、そのときに渡してください。

【事例2】
 買付証明に記載された価格では、売主様は売却に応じて貰えないと思います。そこで相談ですが、私が売主様と値引きについて積極的に交渉しますので、仲介手数料とは別に30万円をご用意ください。この30万円は契約当日に、私にお渡し願います。なお、この30万円に関する領収書の発行はご容赦ください。

【事例3】
 (契約日前日の夕刻に)売主様は大変に忙しい方なので、明日の契約は早めに終わらせることを希望されています。つきましては今日、これからお客様のところに手付金を受け取りに伺います。手付金はその際にお渡しください。

【事例4】
 この物件の売買に際しては、売主様から手付金の金額を増額して欲しいとの要望があります。物件価格の半額を契約当日にいただきたいので、よろしくお願いします。

以下、解答です。

【事例1】
 詐欺の疑いがあります。営業担当が手付金を持ち逃げする恐れがあります。
 不動産売買における購入希望者が複数の場合、手付金を先に渡した方が優先的に契約できるとする慣習はありません。通常は、買付証明を先に提出した方が優先します。ただし、値引き要求や指値、その他の条件が記載されており、売主様において納得できない場合は買付証明の受領を断られることがあります。
 そもそも手付金は契約日に支払うべきものであり、契約の前に要求されることはあり得ません。

【事例2】
 不動産仲介の際における仲介手数料は上限が定められています。仲介手数料は、宅地建物取引業の免許がなければ請求できないこととされています。また、仲介手数料以外の金銭は、交通費などの実費を除き、請求してはいけないとされています。
 30万円は不動産会社を通さず、営業担当が自分のポケットマネーにするために要求しています。これは仲介手数料とは異なる趣旨の金銭であり、請求する行為は宅地建物取引業法に違反します。
 宅地建物取引業の免許を取得しているのは不動産会社であり、そこに従事する営業担当者個人は無免許です。この営業担当が宅地建物取引士の資格を取得していても、宅地建物取引業の免許を取得していることにはなりません。
 このような悪質な営業担当は、大手の不動産会社にも散見されますので注意が必要です。

【事例3】
 かなり怪しいです。営業担当が手付金を持ち逃げする恐れがあります。
「明日の契約時にお支払いします。手付金をどうしてもすぐに受け取りたいのであれば、会社名義の領収書を発行願います。」と告げるべきです。不動産会社名義の領収書の発行を断られた場合は、手付金の支払いを断るべきです。

【事例4】
 宅地建物取引業者が売主である場合、手付金には上限が定められています。物件価格の2割までしか認められておらず、物件価格の1割を超える場合は、手付金を供託所に供託する必要があります(中古物件の場合)。このため、手付金は物件価格の5~10%に設定されることが多いです。
 宅地建物取引業者ではない一般の方が売主の場合には、このような制限はありません。しかし、東京都内では慣習により物件価格の5~10%に定めるのが一般的です。 
 売主様が高額な手付金を要求する場合、まともな不動産会社ではあれば手付金の上限について説明し、納得するように説明します。
 どうしても「売主様の要望」として、手付金の金額が物件価格の半額である場合、売主様および不動産物件が置かれている状況を考慮し、購入するべきかを判断するべきです。

 なお、「売主」と称する者がいわゆる地面師であり、不動産会社が騙されていることがあります。まともな売主様であれば、手付金を物件価格の5~10%に設定することに納得するはずです。
 それでもなお高額な手付金を要求する売主は、売主であると称する地面師かもしれません。