賃貸物件のオーナー様が不動産業を開業した場合のメリット・デメリット

 1棟アパート、マンション等の収益用不動産を所有されているオーナー様から、「宅地建物取引業免許を取得して不動産業または不動産会社を立ち上げた方が良いか」という質問を受けます。

 正直申し上げると大きなメリットがある反面、デメリットもあると言えます。以下、メリットおよびデメリットについて解説します。

メリット

・宅地建物取引業免許を取得して開業し、宅建協同組合などに加入することによりレインズ(不動産業者および金融機関のみが利用できるポータルサイト)を利用できるので、空室が発生した際に次の入居者を早く決められる可能性が高くなる。
・ 有料であるが、オーナー様の収益用不動産における空室をアットホームやSUUMO等の各種ポータルサイトに掲載できるようになる。
・ 「貸主」または「貸主代理」として入居者を募集し、入居先を探している一般の方から入居を直接申し込まれた場合には他の不動産会社に支払う仲介手数料が不要になる。
・工務店、リフォーム会社、警備会社などが自然にアプローチしてくるので、所有している収益用不動産の維持管理に必要な内容を有利に行えるようになる。 
・ 他の不動産会社がアプローチしてくるので、機会を生かすことにより未公開の物件情報を入手できる。 
・ 不動産の査定を適正に行うサービスを利用できる(有料)。 
・ オーナー様又はオーナー様の所有ではないが他の物件を紹介した場合でも、成約できた際には仲介手数料を受け取れる。 
・ 収益用不動産の売却または買い替えを行いたい場合、有利な条件で取引できることがある。 
・ 宅地建物取引業協会、または全日本不動産協会に入会することにより、最新の法令に準拠した契約書、および重要事項説明書のひな形をもらえる。

デメリット

・宅地建物取引業免許の交付および5年毎の免許更新の際に費用が発生する。
・自宅を宅地建物取引業を行う事務所にすることは原則として認められていないので、事務所を借りるか購入する必要がある。 
・宅地建物取引業協会、または全日本不動産協会に入会する際に、入会金および年会費が発生する(入会しない選択肢もあるが、この場合は供託金として1,000万円が必要)。
・法務局に対する供託金が必要(宅地建物取引業協会または全日本不動産協会に加入した場合、本店1店のみであれば60万円、加入しない場合は1,000万円)。 
・最新の法令に関する研修会、その他の講習会等を受講することが義務づけられる。 
・賃貸の分野における「宅地建物取引業」は「賃貸仲介」のみであり、不動産賃貸業(いわゆる大家業)は宅地建物取引業ではない。このため、不動産賃貸業しか行っていないと「宅地建物取引業としての取引実績がない」と見做され、免許更新の際に支障が生じることがある。 
・宅地建物取引業協会または全日本不動産協会における役員や委員が不足しているエリアがあり、当該エリアで開業する場合には所属する会における何らかの役務を引き受けなければならないことがある。 
・従業員5名につき、1名以上の割合で宅地建物取引士を置かなければならない。

 オーナー様が不動産業を立ち上げる場合、不動産業全般に対する情報を早く入手でき、最新の法令に合致した契約書および重要事項説明書のひな形を入手できる、レインズ及びポータルサイトへの掲載が可能になる、仲介手数料を得られる、その他のメリットを享受できます。しかし、宅地建物取引業が免許事業であり、規制業種であるゆえのデメリットもあります。

 あくまでも筆者の個人的見解になりますが、オーナー様が宅地建物取引士資格者試験(以下、宅建試験)に合格しているようであれば不動産業を開業することによるメリットを享受できますが、宅建試験に合格していなければ不動産業を開業する必要はないと思います。