IT重説を提案された場合

新型コロナウイルスへの感染を防止したいという理由により、入居希望者からITによる重要事項説明および契約を求められることがあります。また、入居希望者の居所が不動産会社から遠い場合には、不動産会社から提案をさせていただく場合があります。

本日は、このようなITを利用した重要事項説明や契約は可能なのかについて書きます。

賃貸借契約の場合
現行法および国土交通省の省令によると、このブログを投稿している令和3年2月の時点では、賃貸借契約に向けた重要事項説明および契約の締結について、IT(リモート)の活用が認められています。

特に届け出を行う必要はなく、重要事項説明をIT(リモート)で実施することについて、契約当事者(貸主、入居希望者、仲介会社)が同意していれば、いつでも自由に行えます。

具体的には重要事項説明を行う不動産会社、および入居希望者が双方向でやりとりできるIT環境を設置し、重要事項説明書などを予め送付することにより行うことになります。音声のみをやりとりできる環境で行うことは認められておらず、当事者がWEBカメラを設置することが必要です。

IT環境に関するガイドラインや仕様、必要なソフトウェア等は特に定められていません。関係者が双方でやりとりできる通信環境および機器があれば、直ちに実施することが可能です。

重要事項説明書および契約書(案)は、予め作成した紙の書類を郵送でやりとりしておく必要があります。なお、入居希望者にPDFファイルをメールで送付し、印刷してもらった書類を利用する行為は認められていません。

IT環境で行うことについて、通信環境及び機器に問題がないことを確認し、入居希望者に重要事項説明書が届いていることを確認します。さらに重要事項説明をITを利用した方法で行うことについての同意を得てから重要事項説明を行います。その際に、不動産会社の宅地建物取引士が宅地建物取引士証を画面に提示します。

入居希望者には、貸主による署名捺印を済ませた二通の重要事項説明書および契約書(案)を送付しておきます。説明後、各書類に入居希望者の署名および捺印をしてもらい、一通を返送していただきます。

入居にかかる費用の支払いは、預金口座に対する振込で行っていただきます。入居希望者が署名および捺印をした重要事項説明書および契約書の返送および着金を確認でき次第、部屋のカギを渡し(手渡し、郵便、宅配便)、入居していただくことになります。

この方法の問題点は、重要事項説明書または契約書(案)の内容について入居希望者から指摘がある際の対応です。対面による重要事項説明であれば、その場で訂正印を捺印して文言を修正することにより対応可能な場合が多いのですが、ITを利用した方法では訂正印の捺印や文言の修正が出来ず、その場での対応ができません。文言を訂正した重要事項説明書および契約書(案)を新たに作成、郵送し、重要事項説明を別の日にやり直す必要があります。

不動産売買契約の場合
この場合は国土交通省が実施するIT重説に関する社会実験に参加する旨の申請を不動産会社が行い、この社会実験の一つとして実施することになります。自由に行うことは許されておらず、この社会実験に参加する場合を除き、対面で行うしかありません。

売買契約における決済の際には売主が提出する印鑑証明を司法書士が確認して真正な印鑑証明であるかを確認するプロセスがありますし、ローンを利用した不動産購入の場合には金銭消費貸借契約を締結する必要があることから金融機関の担当者が参加する必要があります。

IT重説を行うには全ての方の同意が必要なことから、これを実務としては行うのは難しい場合があります。

そう遠くないうちに解禁される方向であると思われますが、実務の上では運用ルールの面で検討しなければならない内容がかなり多いです。