不動産会社の営業担当が無免許ブローカーに早変わり

 本題を解説する前に、宅地建物取引士と宅地建物取引業免許とは異なることを説明します。宅地建物取引士の資格があっても、本人または勤務先が宅地建物取引業免許を受けていなければ宅地建物取引業を営むことはできません。宅地建物取引業には不動産の賃貸仲介、売買仲介、売買が該当します。

宅地建物取引士になり、宅地建物取引士証の交付を受けるための要件の概略

・年1回行われる宅地建物取引士資格試験に合格する。合格率は約17%。
・2年以上の実務経験を経た上で都道府県に宅地建物取引士として登録する。
なお、所定の研修を受講することににょり2年間の実務経験があると見做す制度がある。研修の受講、および登録には所定の費用を要する。
・登録には約40日間の審査期間を要する。
・登録完了後、宅地建物取引士証の交付を受ける。

宅地建物取引業免許を受けるために必要な要件の概略

・通常は各都道府県にある(公社)宅地建物取引業協会または(公社)全日本不動産協会に入会する。個人、法人のいずれでも入会可能。
・入会に必要な費用は110~160万円。会はその中から弁済業務保証金として60万円を法務局に供託する。 
・入会の際に営業拠点となる事務所の内部を確認する。原則として自宅を事務所にすることは不可。
・上記の二つの会のいずれにも入会しない場合は、法務局に1,000万円を供託する。 
・宅地建物取引士を従業員5人に1人以上の割合になるように確保し、業務に従事する宅地建物取引士の氏名、番号、写真などを免許申請の際に申告する。 
・事務所の写真、および所定の書類を準備し、都道府県庁(2つ以上の都道府県にまたがり本店・支店を設ける場合は国土交通省)に宅地建物取引業免許を申請する。なお、免許申請費用が発生する。
・免許申請が行われてから免許証が交付されるまでには30~40日程度を要する。

 宅地建物取引業免許を受けるための要件は、かなり厳しいことがわかると思います。このため、無免許で不動産の売買仲介等をおこなう無免許ブローカーが暗躍しています。多くは宅地建物取引士証、宅地建物取引業免許のいずれも交付を受けていません。

 宅地建物取引士の資格があるだけでは、 不動産の賃貸仲介、売買仲介、売買を行うことはできません。違反者には3年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科されることあり)が科されます。

不動産会社の営業担当が無免許ブローカーに早変わり

 最近は宅地建物取引証の交付を受けているものの、宅地建物取引業免許を受けていない無免許ブローカーがいます。その正体は不動産会社の営業担当です。 

 お客様と交渉する際に「宅地建物取引士と宅地建物取引業の免許は同じなので、全て私に任せていただいて大丈夫です。」などの「ウソ」を言い、 さらに「自分は会社の印鑑を持ち出せる立場にあり、重要事項説明書や契約書も自在に作成できます。住宅ローンの申請も問題なくできます。勤務先を通さないで取引してもらえれば仲介手数料を値引きします。」と言います。 

 このように、仲介手数料の値引きを提示し、勤務先を通さずに取引を行うように誘導します。

 お客様が住宅ローンを利用する際も、勤務先の会社名を利用して金融機関と折衝します。金融機関は不動産会社が取引に関与しているものと錯覚し、ローンを成立させます。

 営業担当の給与が基本給と歩合給との両方で構成されている場合、歩合給は利益の15~25%程度に定められていることが多いです。しかし、勤め先の不動産会社を通さないで取引をすれば、仲介手数料を丸ごと手に入れられます。仲介手数料を多少値引きしたとしても歩合給として得られる金額よりも多いので、 勤め先を通さないで取引してもらうことを画策します。

無免許ブローカーの営業担当に取引を依頼すると、犯罪に問われる恐れがある

 この営業担当に不動産の売買や仲介を依頼した場合、営業担当および依頼者は有印私文書偽造および同行使罪に問われることがあります。

 最悪は、住宅ローンの関連書類が不正な方法で作成され、提出されたことが金融機関に発覚した場合です。融資した金融機関は金銭消費貸借契約の内容に違反する行為があったとして、借主に期限の利益を失ったことを通告し、残額の一括返済を求めます。 

 この場合、ほとんどの方は一括返済を出来ないことから不動産を差し押さえられ、任意売却または裁判所が実施する不動産競売を通じて極めて安く売却されることになります。大半の場合に借金が残りますが、これは何年もかけて返済しなければなりません。借金の残額が巨額で返済不能な場合は自己破産を迫られることがあります。

 さらに、住宅ローン関連書類を不正に作成して融資を引き出す行為は詐欺罪に問われる恐れがあります。営業担当だけではなく、依頼者も共犯として処罰されることがあるので要注意です。

 不動産取引の内容に何らかの問題があることが確認された場合でも、営業担当の勤務先は「この取引に自社は関わっていない」として損害賠償を拒否することが考えられます。利用者が民法で定められている「使用者責任」を追及するべく裁判を提起しても、営業担当が行った行為に勤務先が全く関与していない場合は「会社が執行する業務にあたらない」と判断される恐れがあります。

 この場合、不動産会社における使用者責任は免責され、利用者は営業担当以外の誰からも賠償を受けられないことになります。件の営業担当に十分な資力がなければ、利用者は泣き寝入りするしかありません。

 不動産取引において何らかの事故が発生した場合は、不動産会社が加入している損害保険から保険金が支払われますし、不動産会社が所属する保証協会から賠償を受けられます。しかし、営業担当が勤務先の不動産会社を通さずに行った不動産取引には損害保険は適用されず、保証協会による賠償の対象にはなりません。

 無免許ブローカーを利用して不動産取引を行うメリットは何もないと言えます。仲介手数料を多少値引きしてもらえたとしても、犯罪に問われる恐れがあります。全く割に合いません。

 万が一、不動産会社の営業担当から「勤務先を通さないで取引して欲しい」と言われたら、無免許ブローカーとの取引になりますので当該取引を直ちに打ち切ることを強くお勧めします。