不動産競売と公売との違い

 自宅用のいわゆる実需用不動産、収益用不動産のいずれかを問わず、安く購入したいとして不動産競売または公売を利用した購入を検討される方がいらっしゃいます。「実施する主体が異なるだけである」と思われている方が多くいらっしゃると思いますが、落札後のプロセスはかなり異なります。

不動産競売について

 不動産競売は全国の地方裁判所が実施します。不動産競売は、主に債務の担保として供された不動産に対して行われます。具体的には住宅ローンや事業用ローンを利用して不動産を購入すると、不動産に抵当権または根抵当権が設定されます。そして何らかの理由によりローンの返済が滞った際に、抵当権または根抵当権が設定された不動産が差し押さえられ、不動産競売にかけられることになります。 

 この競売を「担保不動産競売」といいます。担保不動産競売の場合、地方裁判所が発行する公告における事件番号は「令和○年(ケ)第○○○○号」となります。公告は裁判所が運営するWEBサイトに掲載されます。

 また、抵当権や根抵当権が設定されていないにもかかわらず、不動産競売にかけられる不動産があります。これは何らかの経済的事件が発生し、不動産の所有者が賠償の義務を負うことが確定した際に、債務者・所有者において預貯金がない場合に債権者が不動産を差押え、競売にかけるというものです。 

 この不動産競売を「強制競売」といいます。強制競売の場合、地方裁判所が発行する公告における事件番号は「令和○年(ヌ)第○○○○号」と記載されます。

 強制競売に関する公告も地方裁判所が運営するWEBサイトに掲載されます。不動産競売の場合、債権者は「原則」として民間人または民間企業になります。「原則」と書いた理由は、ローンの返済が滞る場合には国税や地方税の支払も滞っていることが多く、国(財務省)または地方自治体が当該不動産を差押えることがあることによります。この場合は不動産登記簿に「参加差押」(後から行われる差押え)と記載されます。

 債権者から不動産競売の申し立てが地方裁判所になされると、不動産競売にかけるべき案件か否かを個別に慎重に判断します。不動産競売が実施されると、多くの場合に債務者は不動産を安値で取り上げられることになり、多額の財産を失うので慎重に判断します。

 地方裁判所が不動産競売にかけることを決定した場合、不動産登記簿に「競売開始決定」と記載されます。その後は執行官による物件の現況調査・写真撮影、および不動産鑑定士による物件価格の査定が行われ、現況調査報告書、評価書、物件明細書が作成され、WEBサイトに掲載されます。

 東京都の場合、概ね1か月以内に入札が開始されます。入札締め切りの約1週間後に開札され、落札者(最高価買受人)が決定されます。

 その後、約1か月半後に物件の代金を裁判所に納付し、所有権移転登記が行われます。債務者・所有者が物件に居住している場合は、所有権移転登記後に明け渡しを求める交渉を行います。なお、債務者・所有者の中には「競売にかけられた理由を納得できない」などと主張し、物件の明け渡しを拒否する者がいます。この場合は地方裁判所に引渡命令を発令してもらいます。

 引渡命令に対し、債務者・所有者が異議を申し立てることがあります。この場合は裁判で争われることがありますが、異議申し立てが認められることはかなり稀です。

 最終的には強制執行に移行し、債務者・所有者が居座る場合は公権力により執行官が退去させ、不動産の内部に家財がある場合は搬出して倉庫に搬入します。倉庫における保管期間は約1か月であり、債務者・所有者がその間に引き取らない場合は動産競売が実施され、家財も売却されます。

公売について

 国税、地方税を滞納し、納税する見込みがない場合、国又は地方自治体は債務者が所有する不動産を差押え、強制的に売却します。これを「公売」といいます。

 公売の対象は不動産に限らず、自動車、骨董品などの動産も対象になります。なお、不動産が公売にかけられる際の取り扱いは、地方裁判所が実施する不動産競売とはかなり異なります。

 地方裁判所が不動産競売を行う際に作成する現況調査報告書、評価書、物件明細書等の資料は、公売では作成されません。このため、物件の調査および価格査定は入札者が各自で行う必要があります。

 公売では、落札した方に対する不動産の所有権移転登記までは国または地方自治体が行ってくれます。しかし、明け渡しに対する面倒は見てくれません。明け渡しを受けるためには債務者・所有者と任意の交渉を行うことになりますが、地方裁判所が実施する不動産競売とは異なり、引渡命令の発令を求めることができません。

  前述したとおり、債権者から不動産競売の申し立てが地方裁判所になされると、「不動産競売で売却することは多額の財産を強制的に取り上げること」なので、地方裁判所は不動産競売にかけるべき案件か否かを個別に慎重に判断します。不動産競売が実施される案件は、不動産競売にかけて売却することを地方裁判所が許可した案件であると言って差し支えないと考えられます。

 しかし、公売にかけられる不動産の場合、地方裁判所は「競売にかけて不動産の所有権を強制的に取り上げることが妥当か」についての判断をしていません。このため、債務者・所有者が不動産を明け渡さない場合は、落札者が明け渡し請求を求める裁判を提起することになります。この裁判は長期化することがあり、確定判決を得られるまでに1年以上を要することがよくあります。

 債務者・所有者が任意の明け渡しに応じない場合は、明け渡し請求を認める確定判決を得てからこの確定判決を債務名義として強制執行を行うことになります。

不動産競売と公売の違い

 「公売」では自動車などの動産も売却の対象になります。 

 地方裁判所が行う「不動産競売」では、落札して代金を納付したら引渡命令の発令を依頼し、その後に強制執行につなげることが可能です。しかし、国や地方自治体が行う「公売」において強制執行を行う場合は明け渡し請求訴訟を提起して確定判決を得る必要があります。つまり「公売」では強制執行を行える迄に長期間を要することがよくあります。この点は要注意です。 

 これらの点が、不動産競売と公売とでは異なることに留意する必要があります。