裁判所による強制執行は最後の手段

居住する権利がなくなっているのに住宅や店舗・事務所に居座り続ける方がいます。賃貸物件の場合は、家賃を長期間滞納したために物件オーナーから賃貸借契約の解約を申し渡された場合が該当します。

不動産が競売にかけられ、競落人が代金を裁判所に納付し、所有権移転登記が既に行われたにもかかわらず居座り続け、退去に応じない場合も該当します。

競売にかけられた物件が賃貸アパート等であり、賃借人がいる場合は抵当権設定の時期により6か月の明渡猶予期間が与えられることがあります。6か月の明渡猶予期間が過ぎているのに居座り続ける場合も該当します。

いずれにおいても、居住する権利がないのに居座り続ける方がいる場合は、明け渡しを求める裁判を提起する(競売事件の場合は引渡命令の発令請求)ことになります。

最終的には強制執行の申し立てを行うことになりますが、強制執行には二つの段階があります。強制執行の申し立てを行うと、通常は2~3週間後に明け渡しの「催告」を行います、その後1か月を経た後に「断行」を行います。

強制執行の「断行」とは
「断行」では全ての家財道具を搬出し、居座り続ける方がいる場合は執行補助者の手により建物外に強制的に連れ出します。家財道具はあらかじめ手配した執行補助業者の手によりトラックに積み込まれ、用意した倉庫に運び入れます。建物の錠前は裁判所から委託された鍵業者(解錠技術者)の手により新しいものに交換されます。

家財道具は居住者の私有財産であることから、明け渡しを求める方が勝手に処分することは許されません。倉庫における保管期間は1か月です。その間に居住者が家財道具の引き取りを申し出た場合は、引き取ることが可能です。

保管期間が終了しても家財道具が引き取られない場合は、民事執行法の手続きにより動産競売が行われます。通常は建物の所有者が極めて安価な価格で競落し、所有権を取得した後に廃棄処分を行います。

強制執行には莫大な費用を要する
問題なのは、とてつもなく莫大な費用がかかることです。必要なのは執行官の日当、執行補助者および立会人、解錠技術者の日当、トラックおよび倉庫の費用です。家財の所有権が放棄された後に家財を最終的に廃棄する場合は、産業廃棄物として廃棄することになりますので費用はとても高額になります。

法律上、発生した費用を居座り続けた者に請求することは可能です。しかし、無資力であることが大半であることから、ほとんどの場合において新所有者が支払うことになります。

私の経験ですが、2階建戸建住宅の退去に応じず、居座った方の退去に100万円以上を要した例があります。

居座っている方は、いわゆる反社会的勢力の構成員とその家族である可能性が極めて高いと言うことで、裁判所は警察に連絡し、不測の事態が起きた際には直ちに出動して貰える態勢を執りました。

さらに居住者を建物外に連れ出し、家財道具を搬出する執行補助者(作業員)として最低でも17名を手配して欲しいと裁判所から要請されました。大人数ですが、急遽手配しました。

只ならぬ雰囲気を察したのか、この家族は断行日前日の深夜に「建物の家財道具の所有権を放棄する」旨を記載した念書を郵便受けに置いて退去しました。貸し倉庫の費用はかかりませんでしたが、関係者の日当および家財道具の廃棄費用で100万円超の費用が発生しました。

賃貸のワンルームでも、強制執行を断行まで行うと50万円近くを要することがあります。執行費用は家財道具の量によります。非常に多いと、相応の費用を要します。

可能であれば強制執行を避け、任意の話し合いで退去してもらうことがお勧め
明け渡し請求を認める判決が得られても、執行官が「断行」を行うには通常でも2か月程度を要します。この期間内に話し合いが成立して強制執行が不要になれば、かなりの金銭を節約できます。

そのためには滞納家賃の免除をするだけではなく、引っ越し代の一部等としていくらかの金銭を渡すから早く退去して欲しい旨を申し出て退去して貰うことが考えられます。

ただし、この方法は相手方が確実に退去してくれる確証がある場合に取り得る方法です。居座っている者が反社会的勢力の構成員や、傷害の前科がある粗暴な人物であり、退去に応じない場合は強制執行に頼ることを検討するべきです。