賃貸物件が特殊詐欺の活動拠点として利用された場合(オーナー様向け)

「やや上のグレードに属する、室内面積が広い賃貸住宅を貸しているが入居者の挙動が怪しい。」という相談を受けることがあります。多いのは「入居者は単身者のはずなのに、多人数で引っ越してきた。」とか「入居者は若夫婦のはずなのに、ヤクザか半グレの風体をした数名以上の男性が出入りしている。」というものです。オーナーが管理会社に言っても逃げてしまう場合に、私に相談があります。

杞憂であれば良いのですが、特殊詐欺の活動拠点で利用されているか、反社会的勢力等の事務所、闇カジノ等の賭博場として利用されている可能性があるので注意する必要があります。

特殊詐欺の活動拠点として利用され、警察に摘発された場合
1.賃貸借契約の解約
賃貸住宅の一室が特殊詐欺の活動拠点として利用されているところを警察に摘発され、出入りしていた者が逮捕された場合を考えます。

賃貸借契約書の中に、特殊詐欺が行われた場合には解約になる旨を定める特約条項を設けている場合は、この特約により解約できると思われます。契約書に特約条項がない場合でも、法律上は退去させることが可能であると考えられます。

賃貸借契約を締結した賃借人に連絡したい場合でも、関係者の逮捕後には連絡がつかないことが大半です。利用していた詐欺グループの一員であると推察されますが、証拠が出ないことが多いようです。

契約書に記載している賃借人が詐欺グループの一員である場合は、居住目的で利用するという条件で貸した物件を事務所として利用する目的外利用が行われたとして、賃貸借契約を解約できると思われます。

賃借人として契約した者の連絡先が判明しない場合でも、この契約者が無断転貸した部屋を犯罪集団が利用していたと解することができます。このため、賃貸物件が無断転貸されたことを理由としてオーナーは賃貸借契約を直ちに解約できます。これに伴い、賃借人が詐欺グループとの間で行った転貸借契約または使用貸借契約も解約になります。

2.室内の残置物をどうするか
問題なのは、室内の残置物に対する扱いです。携帯電話やパソコンは警察が押収していると思われますが、テーブル、椅子、生活用品等、残置物の所有権は詐欺グループにあります。グループメンバーの私物も残されているでしょう。これらの物品をオーナーが勝手に搬出して廃棄することは自力救済であり、違法行為です。

逮捕された者に面会し、残置物の所有権放棄を認めてもらい、所有権放棄承諾の書面に署名捺印して貰えれば、グループメンバーの私物については廃棄が可能です。しかし、逮捕された全員が所有権放棄に同意してくれるとは限りません。

また、「掛け子」は犯罪グループの「手足」に過ぎず、その場を取り仕切っているリーダーがいても、部屋の賃貸借契約については何の権限も与えられておらず、明け渡しに関する意思表示を行う主体に成り得ない場合があります。警察は組織の上層部について聞き出そうとしますが、「教えると、釈放後に自分の命に関わる」として、ほとんどの場合に供述を得られないとのことです。

つまり、外形的には明け渡しを拒否されることになります。このため、賃貸借契約を解約した後に明け渡し請求訴訟が必要になることがあります。

3.明け渡しには訴訟が必要かもしれません
詐欺グループは不法占有者なので、不法占有者に対する明け渡し請求訴訟になります。

この訴訟はオーナーが自ら行うのではなく、弁護士に依頼することをお勧めします。賃借人の氏名が判明していても、所在がわからないことが大半であるからです。さらに、複数の者が逮捕されている状況では、転借人が誰であるかを判断することが困難であり、仮に判断できても住所不定のことが多いからです。

裁判所の判断により、訴状の送付は公示送達により行うことがあります。公示送達とは裁判所の入り口近くの掲示板に2週間掲示することにより、訴状が届いたと見做す手続きです。

公示送達を行う旨を決定してから訴状が届いたと判断されるためには、手続きの関係で最低でも1か月弱を要します。その後、明け渡し請求を認める内容の確定判決を得て強制執行の手続きを行います。

4.強制執行
強制執行では、2~4週間以内に執行官が催告を行い、その約1か月後に「断行」を行います。断行により不法占有者の占有が解かれ、残置物の撤去が認められます。「断行」までに要する期間は、強制執行の手続きが開始されてから1か月半~2か月程度(東京都の場合)です。ただし、現在はコロナ禍であることから裁判所の手続きが遅延する傾向があります。3か月以上を要することも想定しておくべきかもしれません。

強制執行を行うことにより、執行補助者が室内の残置物を倉庫へ移動し、鍵を交換します。本来、強制執行の費用は不法占有者(詐欺グループ)が負担するべきであり、法律上は請求可能です。しかし、実際にはオーナーが負担しなければならないことがほとんどです。部屋の面積によりますが、費用は数十万円以上を要することがあります。

その後、約1か月の間に引き取られない場合は動産競売が行われ、物件オーナーが残置物を買い取り、廃棄することになります。

部屋の明け渡しを受けるためには事件発生から3~6か月以上を要します。その後に室内の現状回復リフォームを行い、新たな借主を募集することになります。賃貸物件を特殊詐欺の拠点として利用されると長期の空室期間が生じ、多額の訴訟費用がかかります。後始末は大変です。

特殊詐欺だけではなく、闇カジノなどの賭博場として利用された場合も、同様の手続きになります。

まとめ
犯罪集団に利用されないためにするためには、入居審査を厳格に行うことがは極めて重要です。それには不動産業者を利用することを強くお勧めします。自ら賃借人を募集して契約書を作成するオーナーがいらっしゃいますが、オーナー自らが不動産業者ではない場合は危険なのでお勧めしません。