不動産会社が介在しない賃貸借契約について

 収益用物件(賃貸アパート)を所有されている、あるオーナー様における事例を紹介します。

事案の概要
 この方は、ある不動産会社(私の会社ではありません)に入居者の募集を依頼し、依頼された不動産会社はインターネットのポータルサイトに物件情報を掲載しました。

 約2週間後、賃貸物件を探しているという方が不動産会社の担当者を伴わずに物件を訪問しました。この建物のオーナー様は、建物1階の1室をオーナー様が経営する会社の事務所として利用しており、たまたま物件の周囲を清掃していたところ、「管理会社の方ですか。」と尋ねられました。

 オーナー様が「この物件の大家は自分です。」と告げたところ、「今すぐに内見したいのですが、可能ですか。」と尋ねられたので、部屋を内見してもらいました。

 「ポータルサイトの情報により家賃などの賃貸条件は理解しています。直ぐに入居させてください。」と言われたので、オーナー様が不動産会社に連絡しようとしたところ、内見をした方が制止し、「不動産会社を通さずに契約しませんか。不動産会社を通さなければ、お互いに仲介手数料を節約できます。」と言いました。

 オーナー様は「この物件の入居者募集については不動産会社に任せています。契約書の作成は不動産会社に依頼します。」と告げたところ、内見した方は「不動産会社を利用するなら、他の物件にします。」と言い、お帰りになられたとのことです。

 その後、更に2週間が経過しても内見希望者が現れないとのことで、オーナー様は「不動産会社を通さずに契約した方が良かったのではないかと考えることがある。賃借人の募集を依頼した不動産会社には相談しにくいので、セカンドオピニンが欲しい。」ということで、私に相談しました。

不動産会社の利用を拒む入居希望者は要注意
 結論から申し上げると、この物件のオーナー様の対応は正しかったと言えます。賃貸借契約の締結に際し、不動産会社の介在を拒む方は定職に就いていない、家賃やクレジットカードの支払に関する滞納歴がある等の理由により他の賃貸物件における入居審査を通過出来なかった方が多いです。

 不動産会社が最も気にするのは、賃借人が家賃を滞納する恐れがないかという点です。勤務先、年収を偽る方がたまにいますので、在籍確認を行い、収入証明を提出してもらいます。

 また、入居目的を偽る方、第三者に転貸する方がいます。このような方との賃貸借契約は締結するべきではありません。不動産会社が介在することにより、かなりの割合で入居不適格と見做される方との賃貸借契約の締結を避けることが出来ます。

 令和2年4月に施行された改正民法および関連法により、賃貸物件の連帯保証人になる方には連帯保証債務の極度額を告知しなければならなくなりました。家賃・共益費等の滞納が発生した際に、最大で保証しなければ金額(連帯保証契約の極度額)を告知されると連帯保証人の引き受けを拒む方が多いことから、大半の物件において家賃保証会社との契約が必須になっています。

 家賃保証契約を締結する際は、不動産会社からの申し込みが必須であると定めている家賃保証会社が大半です。賃貸借契約を締結する際に不動産会社を介在させないと家賃保証契約の締結ができず、家賃の滞納が発生した際に代位弁済を受けることが困難になります。

 家賃保証会社では、過去の家賃滞納歴などについて徹底的に調査します。家賃保証契約の引き受けが承認されることをもって、賃貸借契約を安全に締結できるようになります。また、入居後に家賃の滞納が発生しても、家賃保証会社により滞納した家賃の代位弁済を受けることが出来ますし、家賃滞納が継続したことにより退去を要求する場合でも、家賃保証会社によるサポートを受けられます。

 さらに、不動産会社が契約に介在する際は、賃借人に損害保険の締結を求めます。賃借人が自分で損害保険を締結すると主張する場合でも入居開始前に保険証書の提示を求めますので、無保険で入居する事態を避けることが出来ます。

 不動産会社を介在させることなく、賃貸物件のオーナーが以上の内容について対応することは困難です。不動産会社を排除して賃貸借契約を締結する行為は、オーナー様において何も得することはありません。