賃貸物件、退去予定日に退去しない賃借人への対応

よくある事例を紹介します。 

 賃貸物件の賃借人が賃貸借契約の解約を申し出て退去の予定日をオーナー様または管理会社に伝えました。退去日にオーナー様又は管理会社の担当者が退去の立ち会いに行ったところ、引越作業が全く行われていませんでした。
 賃借人に状況の説明を求めると、「都合により今日は退去できなくなった。予定している引っ越し先における入居者が退去してくれない。」と言います。
 数日後、件の賃借人が「引っ越し先の入居者が退去しないことが決まったので、引っ越し先がなくなった。賃貸借契約の解約を撤回したい。」と言ってきました。
 今更退去しないと言われても、既に不動産会社に次の入居者募集を依頼しています。さらに、近日中にリフォーム業者が入室して工事を行う予定で、多忙の中で工事期間を確保してもらっています。工事の中止は、リフォーム業者に多大な迷惑をかけることになります。オーナーとしてはどのような対応をするべきでしょうか。

 賃貸借契約の解約を申し出る行為は、民法が規定する解除権の行使(民法第540条)に該当します。

民法

(解除権の行使)
第五百四十条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
 前項の意思表示は、撤回することができない。

 民法第540条第2項により、賃貸借契約の解約を伝えられたオーナー様は、賃借人に対し退去予定日迄の退去を要求できます。予定日迄に退去しない場合は損害賠償の請求も可能です(通常は後述する賃料増額で対応)。

 引越先として予定していた物件における入居者が退去しないとしても、それはオーナー様には関係ない話です。退去させないと次の入居者募集を依頼した不動産会社やリフォーム業者に多大な迷惑をかけることになります。オーナー様の信用は失墜し、取り返しがつきません。このため、一時的にウィークリーマンション等に入居してもらうとしても、賃借人に退去を求めることをお勧めします。

 もちろん、ウィークリーマンション等の入居費用および引越トラック代をオーナー様が負担する必要はありません。

 賃借人を退去させず、不動産会社に入居者募集を中止してもらい、リフォーム業者に工事の発注を取り消したとします。特に繁忙期である1~3月にこのようなことが起きると不動産会社、リフォーム業者のいずれも大迷惑です。

 このようなことが起きると、この不動産会社はオーナー様からの入居者募集依頼を断るかもしれません。リフォーム業者も同様です。

 対策としては賃貸借契約に特約を設けることをお勧めします。「賃貸借契約の解約を申し出たら解約は撤回できず、退去予定日に退去しない場合は日割りで倍額の賃料を収受する。」などの文言にすることが有効です。賃貸借契約の解約を撤回したいと言われたら、賃料が倍額になることを伝えれば足ります。この方法により、退去を促すことが可能になります。