1棟ものの賃貸アパート・マンションの売買物件は非公開のものが多い

1棟ものの賃貸アパートやマンションの多くはポータルサイト上に掲載されていることが少ないです。楽待や健美家などのサイトがありますが、ここで公開されているのは販売されている物件の一部です。

1棟ものの賃貸アパートおよび賃貸マンションの売却情報がネット上に公開されることは、あまり多くありません。以下、その理由を書きます。

理由その1:賃借人が不安になる
自分が住んでいる賃貸アパート、マンションが売りに出されていると、多くの賃借人は不安になります。「自分はこのまま居住し続けられるのか」、「家賃を値上げされないか」等の漠然とした不安です。

通常の売買が行われる際には借地借家法により、オーナーが変更しても賃借人の権利は守られ、追い出されることはありません。また、新しいオーナーより家賃の値上げを要求されても、賃貸借契約の更新時でなければ断ることが可能です。

また、家賃が近隣の物件における家賃相場よりも極めて低廉であることによる値上げ要求がある場合でも、交渉の余地があります。

しかし、売りに出されていることを知った賃借人は、不安になります。不安であるとして、賃借人の中には自ら退去してしまう方が出てくることがあります。

空室が多く存在する物件は査定価格が低くなります。さらに購入希望者より値引きを要求される根拠になります。売却を希望するオーナーは、賃借人を不安に陥れてはいけません。

理由その2:賃借人から家賃の値下げを要求される恐れがある
多くの収益物件の販売図面には表面利回りが記載されています。この表面利回りから自分が居住している部屋の賃料が他室の賃料より高いのではないかと疑い、オーナーに問合せをする、または家賃の値下げを要求されることがあります。

オーナーとしては家賃の値下げをせず、1棟の建物から得られる年間賃料をなるべく多くし、高利回りな物件であることをアピールしたいのですが、賃借人から家賃の値下げを要求されると厄介です。

理由その3:ポータルサイトを見た方が、物件の周囲を歩き回る
物件情報を印刷した紙、スマートホン、またはタブレット端末を手にした多くの方が物件の周囲をうろうろ歩き回ることがあります。このようなことになると、物件が売られていることを賃借人に知られてしまいます。

オートロックがない物件では、入居者の一室を訪問して中を見せて欲しいと要求する等の無茶振りを発揮する方がいます。入居者にとっては迷惑この上ありません。

理由その4:いわゆる「抜き行為」を行うブローカー又はブローカーもどきの悪質営業担当がいる
街中の不動産会社が賃貸物件のオーナーから物件の売却を依頼され、その情報をレインズに掲載したとします。すると、どこからともなく無免許ブローカーや質の良くない不動産会社の営業担当がオーナーに接触を試みることがあります。

1棟ものの賃貸アパート・マンションは価格が高額であり、仲介に成功すれば高額の仲介手数料が貰えることから登記簿などからオーナーを探し出し、販売活動を自分に直接依頼してくれるように頼む輩がいます。

このような行為を行う輩は、物件の売却をオーナーから最初に依頼された不動産会社を排除し、いわゆる両手取引に持ち込むことを狙っています。

いわゆる「抜き行為」であり、物件の売却をオーナーから最初に依頼された不動産会社の利益を大きく損なうことになります。このため、物件の売却をオーナーから最初に依頼された不動産会社はどうしても情報を非公開にすることになります。

物件の売却をオーナーから最初に依頼された不動産会社はオーナーと締結する媒介契約を「一般媒介」として締結します。一般媒介にすることにより、レインズ掲載の義務を課されなくなります。

なお、この行為はいわゆる「囲い込み」とは異なります。「囲い込み」とは物件の購入希望者が他社経由で現れた際に「申し込みが入っています」とか「契約済みです」等の嘘をつくことにより他社経由の購入希望者を排除し、自社に現れた購入希望者のみに仲介を行うことにより両手取引に持ち込む行為のことをいいます。

1棟ものの収益物件が非公開とされる理由は、上述した以外にもありますが、長くなるので割愛します。