4月に発生した共同住宅の階段崩落死亡事故について

2021年8月6日

 各種報道により御存じの方が多いと思いますが、今年の4月に東京都八王子市で賃貸アパートの階段が崩落し、入居者が死亡するという痛ましい事故が発生しました。築8年の新しい建物における階段崩落事故ということで、不動産業界では話題になりました。

 事故の概要および続報について、朝日新聞デジタル(Yahoo!)が報じていますので引用します。

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※8月6日追記:リンク先の元記事が削除されましたので、リンクを削除しました。

住宅階段崩落「防腐処置せず、物件他も」 会社幹部証言
7/20(火) 11:30配信 朝日新聞デジタル

 東京都八王子市で4月、アパートの外階段が崩れ住民の女性(当時58)が転落死した事故で、施工会社の幹部が警視庁に「必要な防腐措置を部下にさせなかった。同様の物件がほかにもある」などと説明していることが、捜査関係者への取材でわかった。階段は一部木造で、法令で「有効な防腐措置」が義務づけられていた。同庁は違法性を認識していたとみて、業務上過失致死の疑いで調べている。

 事故が起きたのは、築8年の木造3階建て賃貸アパート。1階と2階をつなぐ外階段の踊り場が崩れ、女性が約2メートル下の地面に落ち、5日後に亡くなった。

 外階段は大部分が鉄製で、踊り場は木製だった。建築基準法施行令は、階段には「有効な防腐措置」を施した木製素材に限って使うことができると定めている。捜査関係者によると、アパートの設計図の仕様書にも、踊り場には防腐措置を施すよう記されていた。

 ところが、施工した則武地所(相模原市、破産手続き中)の男性会長は警視庁の調べに対し、「事故が起きた踊り場には防腐措置をしていなかった」と証言した。その経緯については、「全体を鉄製にする技術がなかった。コスト削減のため外注させなかった」「責任は自分にある」といった話をしているという。

 ほかのフロアの踊り場には防腐措置を施した痕跡があるといい、同庁は専門家による鑑定を踏まえて細かく確認する方針だ。

朝日新聞デジタル(Yahoo!)

 入居者が死亡するという最悪の状況が生じた原因は、手抜き工事にあると断定された模様です。しかし、自社に施工技術が無いのに自社による工事を強行し、しかもその工事が法令で規定されている内容に則らない工事であるとは、建築会社としてはあり得ない行為です。

 今後は間違いなく遺族による損害賠償請求が行われ、民事裁判が提起されると思われます。

 原因が何であれ、落ち度が全くない賃借人が建物内で死亡した以上、オーナーは賃貸借契約において規定される、安全に居住させる義務を怠ったと見做されます。さらに、工作物設置責任に関する民法の規定による損害賠償を請求されることが考えられます。

 民法上の責任については、法理論上はオーナーおよび建築会社は損害賠償に関する不真正連帯債務を負担することになります。しかし、本件では建築会社が倒産していることからオーナーが一方的に損害賠償をしなければならないことになります。

 また、これだけ大きく報道されたことからこの物件で不動産賃貸経営を継続することはかなり困難ではないかと思います。心理的瑕疵の程度はかなり大きく、建物全体が事故物件であると評価されてもおかしくありません。最終的には建物を取り壊して再建築するか、土地を更地にして売却するしかないと考えられます。

 この物件のオーナーは誠にお気の毒です。収益用不動産を購入する際には建築会社の評判を調べ、問題を起こしている建築会社が建設した物件の場合は購入しないこと、工事完了の際は不具合の有無を確認することが求められる世の中になったと言えます。

 今後は物件の引き渡し前に、施工した会社以外の会社に属する建築士に不具合箇所の有無を確認してもらい、不具合が確認された際には対応してもらう位の慎重さが必要になるかもしれません。

 今回のような痛ましい事故が起きる確率は極めて低いですが、保険に加入していない状態で入居者の死亡事故が発生すると、オーナーは全財産を失うことがあります。収益物件の運営にはリスクがあります。

 このブログでは再三申し上げていますが、賃貸住宅のオーナーは施設賠償責任保険(施設所有者賠償責任保険、施設管理者賠償責任保険ともいう)への加入が必須です。