「地上げ屋」について(その1)

「地上げ屋」とは
「地上げ屋」とは建築用地を確保するために土地や建物の所有者や建物の賃借人と交渉して土地を買い上げる業者のことを言います。一口に「地上げ屋」と言っても、その態様は様々です。

駅前や繁華街にある狭小の住宅や老朽化したビルを買い上げ、更地にした後で合筆してマンションディベロッパーや建設会社に転売する業者があります。

また、大規模な商業施設が建築されるという噂が立った場合、隣接する土地を買い上げ、大規模商業施設を建築する予定の業者に転売する業者があります。

1990年頃のバブル時には、土地や建物の所有者を恫喝して土地を買いあさり、中にはダンプカーを建物に突入させるなどの暴力行為を行う輩が跋扈しました。暴力団等の反社会的勢力集団が「地上げ屋」として活動し、乱暴な行為により不動産を取り上げた事例がよく報道されていたことから、「地上げ屋」は極めて悪質な輩であるというイメージが未だに定着しています。

しかし、1992年3月にいわゆる暴対法(暴力団員による不法な行為の防止などに関する法律)が施行されました。

暴力団員による不法な行為の防止などに関する法律

第9条(暴力的要求行為の禁止)

第1項1号~12号 省略

十三 正当な権原に基づいて建物又はその敷地を居住の用又は事業の用に供している者に対し、その意思に反して、これらの明渡しを要求すること。

十四 土地又は建物(以下この号において「土地等」という。)について、その全部又は一部を占拠すること、当該土地等又はその周辺に自己の氏名を表示することその他の方法により、当該土地等の所有又は占有に関与していることを殊更に示すこと(以下この号において「支配の誇示」という。)を行い、当該土地等の所有者に対する債権を有する者又は当該土地等の所有権その他当該土地等につき使用若しくは収益をする権利若しくは当該土地等に係る担保権を有し、若しくはこれらの権利を取得しようとする者に対し、その者が拒絶しているにもかかわらず、当該土地等についての支配の誇示をやめることの対償として、明渡し料その他これに類する名目で金品等の供与を要求すること。

十五 宅地建物取引業者(宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)第二条第三号に規定する宅地建物取引業者をいう。次号において同じ。)に対し、その者が拒絶しているにもかかわらず、宅地(同条第一号に規定する宅地をいう。)若しくは建物(以下この号及び次号において「宅地等」という。)の売買若しくは交換をすること又は宅地等の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をすることを要求すること。

十六 宅地建物取引業者以外の者に対して宅地等の売買若しくは交換をすることをみだりに要求し、又は人に対して宅地等の貸借をすることをみだりに要求すること。

~以下略~

総務省 e-gov 法令検索

暴対法の施行により、暴力団が「地上げ屋」として地上げ行為を行うことが禁止されました。また、宅地建物取引業者(不動産会社)に対し、地上げ目的で不動産の売買、交換、仲介を不当に要求することが禁止されました。

現在、地上げ行為に暴力団が関わることは法的に認められておらず、いわゆる「地上げ屋」は宅地建物取引業免許を受けた不動産会社が行います。ダンプカーを建物に突入させるなどの暴力行為を行う輩はほとんどいなくなっています。

宅地建物取引業の免許を受けていない者が「地上げ屋」として活動し、不動産の売却を求められた場合、または地上げ行為に絡む暴力行為や脅迫を受けた場合は、警察や各都道府県の不動産業課等に相談する事をお勧めします。

地上げ屋が「土地を買いたい」と言ってきた場合
言うまでも無く、不動産の所有者には売却を断る権利があります。売却には心情的に抵抗感を強く感じる方が多くいらっしゃいます。断固として断る場合は、不動産の取り扱いに精通している弁護士を通じて断ることが得策である場合があります。

しかし、隣接する土地が次々に買収され、高層の建物が建築されて陽当たりが良くない土地になる等、住環境が悪化することが確実な場合は、売却が有利であることがあります。

「地上げ屋」は購入価格を提示してきますから、その価格が妥当かを検討して判断するべきです。知り合いに売買を専門とする不動産会社の社員や不動産鑑定士がいる場合は、価格が妥当かについて意見を訊くことをお勧めします。妥当な価格がどのくらいなのかは、弁護士よりも不動産会社や不動産鑑定士がよく知っています。

「地上げ屋」に契約書を作成させると不利になる
「地上げ屋」に契約書を作成させると、売主が一方的に不利になる内容が盛り込まれることがよくあります。仲介手数料が必要になりますが、売買を専門とする不動産会社に「仲介」をお願いし、契約書の作成をお願いするのが得策です。

ちなみに、弁護士に契約書を作成させた場合でも宅地建物取引業法により重要事項説明が必須であり、不動産会社の宅地建物取引士が説明しなければなりません。弁護士が全てのやりとりを取り仕切ることは宅地建物取引業法に違反する行為です。通常は弁護士が紹介する不動産会社が重要事項説明を担当することになります。

「地上げ屋」は不動産会社が倒産、廃業する原因の一つ
意外に知られていないのですが「地上げ屋」として活動する不動産会社は、いつも儲けているわけではありません。地上げ屋稼業を始めたことから倒産、廃業した不動産会社は数多くあります。

これは長くなるので、明日の投稿で書きます。