空室がある収益用不動産に対する値引き要求と物件不足

 収益用不動産の売却に関する相談の際に問題になるのは現況が空室である貸室の存在です。入居者の退去後、次の入居者がなかなか決まらない事案が増えています。

 現在、東京都23区内の物件における空室率はコロナ禍になる前よりもかなり高くなっています。ホームズ(LIFULL HOME’s)のWEBサイトによると、千代田区36.5%、目黒区28.2%、中央区27.7%、荒川区20.5%という状況です。千代田区、目黒区、中央区、荒川区における1棟アパート、マンションでは2~4割の部屋が空室であり、事業用ローン返済中の物件では多くの物件が赤字運営に陥っているものと思われます。

 空室率が10%未満の区は中野区、江東区、墨田区のみという状況です。

 空室率が増加した原因は言うまでもなく新型コロナウイルス感染症の蔓延です。飲食店および物販店の多くが長期休業または廃業に追い込まれ、これらの店で働く従業員が解雇されました。このため、解雇された方の多くは家賃の高い都内の賃貸マンションから退去して郊外に転居しました。故郷にお帰りになられた方も数多くいらっしゃいます。特に若者向けの単身者用マンションにおいて空室が激増しました。

 また、ここ数年の間に相続税対策として1棟マンションや1棟アパートが数多く新築され、貸室の供給数が激増したことも空室の急増に拍車をかけています。

空室が多い1棟アパート、1棟マンションは大幅な値引きを要求されやすい

 空室率が高い物件は、購入希望者における心証が良くありません。購入される方は購入した直後から多額の賃料収入を得られることを期待しています。お客様の中には「現況満室の物件でなければ購入しない」と言われる方が多くいらっしゃいます。

 空室が多い物件は、「何らかの原因があるために満室にならない物件」と思われやすいです。このため、空室が多い状況で売却しようとすると、購入希望者から大幅な値引きを要求されます。

「満室になるまで待つ」オーナー様

 満室ではない物件の価格は満室時における物件価格の1~2割以上安くなることがあります。1棟マンションの場合、1千万円以上の差が生じることがあります。このため、売却を希望するオーナー様の多くは「満室にしてから売却しよう」とお考えになります。

「満室になってから売却」と考えるオーナー様が多いので、物件の供給不足は当分続く

 しかし、コロナ禍の長期化と物件の激増により、空室が発生すると次の入居者がなかなか決まらない物件が増えています。

 空室が埋まらない以上、売り出される物件の数はなかなか増えないことが想定されます。今後、しばらくの間はこの傾向が続くと思われます。

 空室率の急増も、収益用不動産の売り物件が少ない原因の一つです。