不動産売買契約が買主の手付金放棄により解除された場合でも、仲介手数料の支払いは必要か

内容を簡単に理解していただくために、本日の内容は事例を用いて説明します。

事例

 売主Aが、自らが居住している戸建住宅をBに売却する売買契約をAB間で締結し、その際にBが手付金として物件価格5,000万円の5%である250万円をAに支払いました。売主Aには不動産会社甲が、買主Bには不動産会社乙が介在し、二つの不動産会社が介在する、いわゆる「片手取引」の契約になりました。

 ところが、買主Bの勤務先が転勤命令を発令したことから、Bは住宅を購入しても意味が無いとして手付金を放棄し、契約を解除する旨を関係者に伝えました。売主Aは、転勤が理由であれば仕方ないとして手付金を受領する代わりに売買契約を合意解除することに同意しました。

 しかし、不動産会社甲は売主Aに、不動産会社乙は買主Bに対し、各々仲介手数料171万6千円(宅地建物取引業法が定める媒介報酬の最大限度額)を請求しました。甲、および乙は「売買契約の成約に向け、各種調査を行い、重要事項説明書および契約書を作成し、重要事項説明および契約を終えた後の解除であるから、仲介手数料の請求は正当な権利である」と主張しています。
 この請求は正当な請求であるといえるでしょうか。

売買契約の成約に向けて物件調査や販売図面の作成、広告掲載を行い、重要事項説明書および売買契約書を作成して説明したにもかかわらず、不動産会社甲および乙が仲介手数料を一切受け取れないのでは不合理と言えます。特に売主Aは手付金250万円を受領していることから、不動産会社甲が仲介手数料を全く貰えないというのでは不公平と言えます。

判例
様々な考え方がありそうですが、判例は手付金を受領した売主側の不動産会社における仲介手数料の請求を認め、宅地建物取引業法が定める最大報酬額の半額が妥当であると判じています(福岡高等裁判所那覇支部平成15年5月25日)。

契約が解除された場合には、解除された以後の事務処理を行う必要は無くなることから、半額の請求が妥当であると判示しました。なお、売買契約書に特約を定める場合は、その特約が有効であるとしています。

解約した側の不動産会社にも報酬請求権はあるか
事例では、買主Bは手付金を放棄することにより売買契約を解除しましたが、買主B側の不動産会社乙はBに仲介手数料を請求できるかが問題となります。

この点に関する判例は見当たりませんが、上記判例が判示した内容から類推すると、買主側の不動産会社乙も半額の請求ができると、一応は解されます。

手付損倍返しのみで売買契約を解除できることにはなりません。売買仲介を行う不動産会社が取引関係に介在している場合には、仲介手数料の半額相当額を支払う必要があります。

もちろん、売買契約書に特約を定めている場合は、その内容に従うことになります。

また、同様の事例で仲介手数料の全額を請求された場合には、上記の判例を引き合いにして金額を交渉する余地があると思われます。