賃貸マンションやアパート(1棟もの)を競売で購入する場合

昨日は、賃貸マンションやアパート(1棟もの)を任意売却で購入する場合について書きました。本日は、競売で購入する場合について書きます。

任意売却物件を購入する場合とはかなり異なります。

妥当な入札額を決めることが難しい
任意売却の場合とは異なり、取引関係に「売主側の不動産会社」というものが存在しないので、細かい部分については競売前に自分が調査する必要があります。裁判所の執行官が調査を行い、現況調査報告書および評価書を不動産物件情報サイトに公開しますが、情報量はそれ程多くありません。少ない情報の中で購入価格を短期間に決める必要があります。

安く買えない
最近は、競売による購入を希望される方が増えており、最終的な売却価格が市場価格を大幅に超えることがよくあります。

現況による引渡になるが、内見が出来ない
競売には内見の制度がありますが、債務者所有者が承諾しないことが大半であり、内見はほとんど実施されません。内見が出来ない代わりに、裁判所が現況調査報告書を作成し、競売前に競売不動産物件情報サイトに公開しています。

しかし、現況調査報告書に誤りや見落としがあることがあります。債務者が「雨漏りがない」と申告した場合には、その旨が現況調査書に記載されます。しかし、物件の引き渡し後に雨漏りが確認されることがあります。私の会社でも、このような物件に遭遇したことがあります。
このような場合でも、裁判所が責任を取ることはほとんどありません。

ローンによる購入を一般の方が行うことはできない
競売物件の購入にはかなりのリスクが伴うので、ローンの利用を認めてくれる金融機関はほとんどありません。融資を受けられるのは、不動産の買い取り後にリフォームして再販する行為を生業としており、相応の実績がある不動産会社のみです。

任意売却が成立しなかった物件が多い
競売物件の多くは、競売の前に任意売却物件として売り出されていることが多いです。その間に不動産会社が買い付けなかったということは、不動産自体が抱える瑕疵が大きすぎて解決が困難であるか、抵当権を抹消するために抵当権者(金融機関等)が要求する金額が高額すぎるかのいずれかであることが多いです。

前者の例は、無届け建築物であるために建物収去命令が発令される可能性が高い、告知事項有りの部屋(不審死等)が複数ある、修繕不能と思えるほどに朽廃が酷いのに多くの賃借人が居住中である、賃借人の中に頻繁にトラブルを発生させる住人がいる、賃料を長期間滞納している住人が多い、空室率が異常に高い等の物件です。

後者は、ほとんどの場合に競売が実行されることになります。

所有者より異議を申し立てられることがある
競売により安値で売られることに納得していない所有者が多く、手続きの進行に際して異議(執行抗告、執行異議申し立て)を申し立てられることがよくあります。これらの申し立ては裁判所により却下されることが大半なのですが、裁判所が却下の判断をするまでの間、競売手続きの進行は停止します。その期間は2週間以上かかることが通常です。

所有者が嫌がらせをすることがある
困ったことに、競売における買受人に嫌がらせをする方がいます。空室に私物を持ちこみ鍵をかけ、その鍵の引渡を拒否したり、共有部や空室の設備を壊すことがあります。空室における全ての窓ガラスを割る、室内のドアを全て撤去する、浴槽やトイレの便器を撤去する、壁に大きな穴を開ける等です。

鍵の引渡を拒否する理由は「強制執行をさせるように仕向けて困らせてやろう」という、単なる嫌がらせです。

設備の破壊行為は、外形的には建造物損壊および器物損壊といえる行為です。しかし、所有権が買受人に移転する前にこれらの行為が行われたのであれば、罪に問われる行為ではありません。これらの行為が行なわれた日時を証明することはとても困難です。このため、修繕に要する費用は、買受人の負担になります。

抵当権設定後に締結された賃貸借契約に基づき入居している賃借人を退去させることができる
競売が実行されて買い受ける方が決まり、所有権が移転した日から6か月の猶予期間を経過した後に退去させることが出来ます。賃料を滞納している賃借人やトラブルメーカーを退去させることが出来ます。前所有者と賃借人との間に締結されていた賃貸借契約は、競売後に所有権が買受人に移転した際に終了します。

退去をお願いしたにも関わらず猶予期間内に退去しない住人に対しては、裁判所による強制執行が行われ、強制的に退去させることになります。ただし、退去させるには相応の費用を要しますし、退去後の原状回復費用を退去させる住人に請求することは出来ません。

なお、抵当権設定前に締結された賃貸借契約に基づき入居している賃借人を退去させることは出来ません。

まとめ

任意売却を試みても買い付ける不動産会社がなかった物件が大半なので、物件自体が抱える瑕疵が任意売却物件に見られる瑕疵よりも酷い物件が多いです。

賃貸借契約の締結時期が抵当権の設定時期よりも後である場合に限られますが、長期にわたり賃料を滞納している賃借人、およびトラブルを頻発させる不良賃借人を排除できます。これは、任意売却物件には見られない有利な点です。

都心の物件の場合、通常の物件における相場よりも高い価格で入札される傾向があり、難点と言えます。