収益用不動産を購入した際、既存の賃貸借契約は?

 入居者が居住している収益用不動産(1棟アパート、1棟マンション、収益用区分マンションなど)を購入した方から、既存の賃貸借契約の取り扱いに関する質問を受けることがあります。

 売主との間で通常の不動産売買契約を締結して購入した場合、収益用不動産には賃借人が入居しており、オーナー様と賃借人である入居者との間に賃貸借契約が締結されています。なお、サブリース業者が賃借人である場合にはサブリース事業者と賃借人である入居者との間で賃貸借契約が締結されています。

賃貸人の変更、新たな家賃の支払方法(振込先の変更等)を入居者(賃借人)に連絡

 購入後、最初に行わなければならないのは収益用不動産が売買されたことにより賃貸人(オーナー)が変更した旨を全ての入居者に伝えることです。

 管理会社の変更がない場合、または家賃の支払い方法が賃貸保証会社(家賃保証会社)が指定する預金口座への振込である場合は、入居者、管理会社、賃貸保証会社に対し賃貸人(オーナー)の変更を伝えるのみで済みます。

 しかし、それ以外の場合は家賃の支払先、支払方法(振込、口座振替、持参の別)が変わる旨を入居者(賃借人)に伝える必要があります。この場合はオーナー様から全ての入居者に対し、オーナー(賃貸人)が変更した日、および今後の家賃の支払い方法を伝えます。家賃の支払方法がオーナー様、または管理会社の預金口座に振込む方法である場合は、新たな振込先となる銀行預金口座を連絡します。

 管理会社を変更し、家賃の出納管理を新たな管理会社に委託する場合は、管理会社から家賃の振込方法(送金先となる預金口座)を案内してもらいます。口座振替に対応している場合は口座振替の申し込み用紙等を配布してもらい、その後のフォローを行ってもらいます。

従来の賃貸借契約書を書き替えるか

 東京都区内の慣習では、オーナーが変更した旨および家賃の支払い方法を伝える書面を賃借人に送付することのみを行います。オーナーの変更以外に契約内容の変更がなければ、原則として賃貸借契約書の書き替えは行いません。

 ただし、契約の更新時期を経過しているのに更新後の契約書が作成されていない、いわゆる「法定更新」に該当すると思われる状況の賃借人に対しては新たな更新契約書を作成することになります。

賃借人から家賃値引き等の要望が出た場合

 オーナーが変更したからといって、家賃の値引きを求める理由になりません。原則として値引き要求等は契約更新の際に申し出る性質のものであり、値引きの要求が正当であると理解できる特段の事情がない場合は従来の契約条件を継続して構わないと思われます。

不動産競売で購入した場合

 賃貸借契約が担保権(抵当権、根抵当権)が設定される前に締結され、この担保権の実行として不動産競売が行われた場合は、賃貸借契約は依然として継続します。オーナーが変更した旨、および新たな家賃の支払い方法を入居者(賃借人)に伝えるだけで足ります。

 しかし、賃貸借契約の締結が担保権(抵当権、根抵当権)が設定された後に行われ、担保権の実行として不動産競売が行われた場合は、物件の所有権が新しいオーナーに移転した時点で該当する賃貸借契約の全てが終了します。

 オーナー様は入居者である賃借人と新たな賃貸借契約を締結するか、退去して欲しい旨を伝えることになります。入居者に従来通り入居してもらう場合は、賃貸借契約の条件(家賃、更新料など)を新たに決めることが可能です。

 また、入居者に退去(明け渡し)を求める場合は、6か月の猶予期間を与えなければならないとされています。この間の家賃は「損害金」として入居者から徴収できます。

 この損害金の支払いが行われなかった場合、または6か月の猶予期間を経過した後も退去に応じない場合は、裁判所に引渡命令の発令を求めることができます。引渡命令が発令されても退去しない場合は、裁判所が行う強制執行により退去させることになります。