家賃滞納者を退去させたい賃貸保証会社が勧める「夜逃げ」の是非

 このブログでは、「家賃を滞納する賃借人に退去を求める際に自力救済行為を行うべきではない」と過去に何回か書いています。

 「追い出し屋」を利用した力ずくの追い出し、玄関扉の錠前を交換して室内に入れなくして室内の家財を捨てる、等の行為を賃借人に行うと賃借人がNPO団体に駆け込み、NPO団体の顧問弁護士を通じて損害賠償請求訴訟が提起されることがあります。さらに、暴行、傷害、監禁、恐喝、強盗等の行為が行われた場合は刑事責任を追及されることがあります。

 自力救済を避ける為にはオーナー様から賃貸借契約を解約し、明け渡し請求を提起することが必要になります。通常は家賃滞納が3か月以上継続した場合に裁判所は訴状を受理します。そしてオーナー様による明け渡し請求を認める判決が下されたところで賃借人が退去に応じず居座る場合は強制執行を行い、退去させることになります。

 問題は、家賃滞納が始まってから強制執行が行われるまでには半年~1年以上の期間が必要になることと、明け渡しが完了する迄の家賃収入を得られないこと、高額な裁判費用が発生することです。

 賃貸保証会社(家賃保証会社)が賃借人と保証契約を締結している場合、契約内容によりますが、滞納された期間に対応する家賃相当額をオーナー様に代位弁済しなければなりません。そして代位弁済した金額は賃借人に求償することができますが、賃借人は無一文同然のことがよくあり、最終的には賃貸保証会社の持ち出しになることが大半です。

 家賃を滞納して立ち退きを拒む賃借人が増えると、賃貸保証会社の経営が成り立たなくなります。

 このため、賃貸保証会社の中には家賃を滞納している賃借人にいわゆる「夜逃げ」を勧めるところがあるようです。賃借人に対し「この部屋に居座り続けると滞納家賃と裁判費用を請求され、居座る期間が長くなるに従い請求額が増える。夜逃げした方が良い。」と勧めると言われています。

 そして賃貸保証会社の「提案」に応じ、夜逃げする賃借人が数多くいるようです。

裁判の判決に基づく強制執行が行われる場合

 明け渡し請求を認める判決が下されたことから行われる強制執行では、執行前に健康状態を確認します。そして明らかに健康を害している場合や高齢者である場合は地方自治体が運営する施設やアパート等に移す緊急避難措置が執られることが多いです。その際には併行して生活保護の認定手続きが執られることがよくあります。

 明らかに健康を害している場合や高齢者の緊急避難措置を行えないと、強制執行は「執行不能」になります。裁判所には裁判の判決内容を実現することが求められるので「執行不能」を極力回避しようとします。このことが緊急避難措置を地方自治体に要請する理由です。

 地方自治体により「施設の空きがない」等の場合がありますが、この場合でも隣接する地方自治体に対し、裁判所が働きかけをすることがあります。

賃借人が夜逃げした場合

 賃借人に夜逃げを勧めたことにより夜逃げをした賃借人は「住所」を失います。すると賃借人が無職である場合に再就職が非常に困難になります。工事現場の作業員などで、住み込みで働ける体力があればホームレスにならずに済むことがあります。しかし、健康を害している、または高齢者の場合はホームレスになることが多いです。

 賃借人が夜逃げすれば裁判費用を節約できるので歓迎するオーナー様および賃貸保証会社が多いですが、この方法では賃借人を高確率でホームレスにしてしまうので「道義的に許されるか」という問題があります。