緊急事態宣言の発出による賃貸住宅および不動産会社への影響

緊急事態宣言が東京都、大阪府、兵庫県、京都府に再び発出されました。このため、以下の影響が生じることが懸念されます。飲食店だけではなく、賃貸物件のオーナーおよび不動産会社も大打撃を被ることになります。

設備の故障に対するクレームへの対応が遅れる
水道栓、湯沸かし器、エアコン器等の故障が発生した場合は管理を行う不動産会社または管理会社に連絡があり、そこから工事業者が手配され、対応に当たることになります。

問題は修理部品の調達先です。水道栓のパッキン、蛇口等の汎用交換部材であれば、大抵の工事業者にストックがありますのでそれで対応出来ます。しかし、湯沸かし器、コンロ、温水暖房便座、玄関の錠前、屋根瓦等の故障や破損が発生した際に対応する部材の全てをストックしている工事業者はありません。

ほとんどの場合、お客様は急ぎの対応を要望されます。このため、工事業者が部品類を求める先の大半は物件の近くに立地するホームセンターです。

今回の緊急事態宣言では床面積1,000㎡以上のホームセンターに対する休業要請が行われています。生活必需品売場に対する閉店要請は行われないとのことですが、住宅設備における部品の全てが「生活必需品」とは言えないことから、物件の近くに立地するホームセンターでは部材を調達できないことが想定されます。

この場合は修理部品の入手に時間を要することから、設備故障への対応が遅れることになります。

家賃の滞納や犯罪が増加する
緊急事態宣言の発出により、勤務先の倒産・廃業、賃金カット、解雇が増えるのは確実です。

家賃保証会社と賃借人との間に保証契約が締結されている場合、家賃の督促およびオーナーに対する代位弁済は家賃保証会社が行います。しかし、家賃保証会社との補償契約が締結されておらず、連帯保証人が立てられている物件における家賃の督促は管理を委託されている不動産会社または管理会社が行います。

「無い袖は振れぬ」のことわざ通り、無収入になったことから手持ちの資金が全てなくなり、このために家賃を滞納し、オーナーが退去を求めても行き先が見つからず、連帯保証人も無資力に陥っていることから代位弁済できないという方が増えています。行政に対応を求めるとしても、行政が対応を決めてくれるまでは現在居住している賃貸物件にそのまま入居させておくことになります。

「追い出してしまえば良い」と思われる方がいらっしゃると思いますが、立ち退きを認める裁判を裁判所に提起したくても、家賃滞納の原因がコロナ禍による場合は裁判所書記官の判断により訴状を受理しないことがあります。現状では、滞納が3か月続いている場合でも訴状を受理してくれないことが多いです。

また、力ずくで追い出す行為は自力救済行為として法が禁止しています。不動産会社や管理会社が力ずくで追い出した場合、賃借人から住居侵入罪などで告訴されることがあります。地方では自力救済を黙認しているところがあるようですが、東京都区内でこのような行為を行ったことが行政に発覚すると、大半は処罰の対象になります。

今年の繁忙期は賃貸物件に対する入居希望者が少なく、賃貸アパート・マンションにおける空室が埋まらないまま4月を迎えた物件が多くあります。この状況で家賃を滞納する賃借人が現れると、オーナーが受けるダメージは深刻です。

家賃の滞納を続けた方は、いずれは退去させられることになります。滞納の原因は賃借人が無収入に陥っていることにありますので、犯罪行為の増加に繋がります。

賃貸物件、売買物件のいずれも内見が減ることから成約に至らない
以前に緊急事態宣言が発令された際は、不動産物件に関する問合せや来店される方の数が激減しました。今回も激減することが予想されます。

ウイルスが怖いということで不動産を内見する意欲が消失してしまうことが一因ですが、それ以前の問題としてコロナ禍が終息しないことから勤務先の倒産、廃業、賃金カット、解雇等を想定し、支出を抑制して万が一の事態に備えたいという心理が働くことが大きな原因であると思われます。

賃貸物件の場合、入居者の多くは気分転換程度の動機では転居しなくなっています。

売買物件も同様です。自宅の購入を検討している方も「勤め先から解雇された場合を考えると住宅ローンを利用した不動産購入は考えられない。」とお考えになります。自宅の購入を希望され、相談を受けていたお客様から「コロナ禍が終息するまで買い替えを見合わせたい。」との連絡を受けることが増えています。

賃貸物件を貸したいオーナー、不動産を売却したい売主のいずれにおいても成約できないことにつながります。