困った相談(その27、倒産を回避したいので社有の不動産をすぐに買い取って欲しい)

※相談者のプライバシーに配慮し、事案を一部アレンジしています。

 相談者は会社経営者です。副業として渋谷区内にある超高層マンションの高層階にある一室(区分所有権)を購入し、賃貸物件として富裕層の方に貸していたとのことです。この一室はいわゆる「億ション」です。

 「不況の長期化により本業が傾き、さらに返済期日が明日に迫った手形があります。明日の朝に全額を用意できないと会社が倒産するので、会社の資産であるこの一室を今すぐに売りたいです。」とのことで、社長が自ら私の会社を訪れました。

 来社されたのは午後8時近くでした。「今すぐに1億5千万で購入してください。明日一番に全額を一括で入金してください。」と言います。

 このマンションですが、部屋は角部屋であるものの採光面は北であり、陽当たり良好とは言えない状況でした。レインズで検索したところ、すぐ下の階の角部屋も売り出されており、この部屋の売却価格は1億2千万円でした。社長が希望する売却希望価格は高めです。

 それに物件の現況調査が間に合いません。現況(家賃の金額、賃借人の属性、滞納の有無)、管理費および修繕積立金の納付状況、内装および室内設備の状態、その他を確認しなければなりません。

 さらに午後8時では登記簿を確認する手立てがありません。抵当権・根抵当権や所有権移転仮登記等の有無を確認し、問題がないことが確認できなければ購入するわけにはいきません。

 また、手形が不渡りになる直前では、第三者による破産の申し立てが既に行われていることがあります。うっかり送金すると破産法に違反する恐れがあります。

 「何が何でも今すぐに買ってください。売買契約書をこの場で作成し、明日一番に入金してください。価格が高いというのであれば1億3千万でも構いません。」と言われて土下座をされたのですが、お引き取りいただくしかありませんでした。

 不動産会社であれば常に何億円もの大金を預金しているとお考えの方がいらっしゃいますが、中小および零細の不動産会社では資金が必要になった際にその都度金融機関から資金を借りているのが現状です。そのような大金を常時預金している不動産会社はほとんどありません。

 それに夜間に訪れた初見のお客様に調査未了の状態で1億3千万円もの大金を一度に支払うことは無謀であり、どの不動産会社でもお断りすることになります。筆者の会社に来られる前に不動産会社を何社も訪問したと思われますが、全て断られたのでしょう。

 この会社が倒産したかについてはわかりませんが、売却の決断を何故もっと早く行えなかったのかが悔やまれます。会社が保有する不動産を現金化したい場合は、早めに行動されることを強くお勧めします。