収益用不動産購入の際は、年間支出および空室リスクの見積等が重要

 1棟マンション、アパート、収益用区分マンションを購入された方が経済的に困窮し、賃貸住宅の運営から撤退する事案があります。多額の借金が残った挙げ句、自己破産を申請される方もいらっしゃいます。

 原因の多くは、コロナ禍により空室が急増し、空室期間が長期化したことから想定していた家賃収入を得られなかった、設備の更新に多額の費用を要した、コロナ禍が長期化したことから入居していた飲食店テナントが厨房設備や大型冷蔵庫などを残したまま廃業した、等によるものです。

 コロナ禍が長期化したことから飲食店が倒産または廃業し、飲食業に従事している単身者が解雇された、または賃金カットを受けたことから、特に都心のワンルームまたは1Kのマンション、および飲食店テナントを抱える店舗・事務所ビルは深刻な状況に陥っています。

 都内では城南地区(目黒区、世田谷区、品川区、大田区)は家賃相場が高いことから家賃が安いエリアに転居する方が増えています。コロナ禍が終息しかかっているとはいえ、家賃を大きく下げても入居希望者が現れない状況が続いており、城南地区におけるワンルームまたは1Kのマンション運営は困難を極めています。

本業がとても忙しい方には、 収益用不動産の購入をお勧めできない

 「収益用不動産のことはわからない」として全てを不動産会社に任せきりにする方がいらっしゃいます。また、「不労所得を得たい」という理由で収益用不動産を購入する方がいらっしゃいますが、賃貸住宅の運営による収入はいわゆる「不労所得」ではありません。

 収益用不動産の運営にはある程度の知識が必要です。また、物件の管理を不動産会社または管理会社に委託している場合でも何らかのトラブルが発生した場合にオーナー様が自ら対処しなければならないことがあります。

  賃貸住宅の運営は、本業がとても忙しく、完全な不労所得を得たいという方には不向きです。

空室リスクおよび年間の収入および支出のシミュレーション、入居状況の調査が必須

 賃貸住宅の運営が破綻する原因の多くは、空室リスクを想定していなかったこと、および年間の収入および支出に関するシミュレーションに誤りがあったことにあります。さらに、入居者の入居状況も要注意です。

1.空室リスク

 空室になると、その部屋から得られる収入はなくなります。空室が生じると部屋のリフォーム代が必要であり、次の入居者を募集する際には不動産会社に仲介手数料を支払う必要があります。また、リフォーム工事期間は入居希望者の内見が出来ないことが多く、工事期間中に入居者を決めることはできません。

 都心の賃貸物件では4年~6年毎に入居者が入れ替わることを想定しておく必要があります。空室になった場合、春の繁忙期であれば1~2か月以内に次の入居者が決まりますが、繁忙期を外れると空室期間が半年を超えることがあります。つまり、4~6年の間に数か月程度の空室期間が生じる可能性があり、リフォーム代と仲介手数料が発生することを考えておく必要があります。

2. 年間の収入および支出に関するシミュレーション

 必ず行わなければならないのはレントロールの確認、および売主(賃貸人)および入居者(賃借人)との間に締結されている賃貸借契約書の確認です。

 レントロールにおいて物件が所在するエリアにおける家賃相場を大きく逸脱する金額の家賃が記載されている場合は要注意です。現況は空室なのに「入居中」として記載されていることがたまにあります。また、近日中に退去する旨を申し出ている部屋があるのにレントロールに記載されていない部屋があることがあります。

  売主(賃貸人)および入居者(賃借人)との間に締結されている賃貸借契約書、特に家賃および敷金の金額については確認する必要があります。

 確認を怠りやすいのは固定資産税および都市計画税です。収益用区分マンションの場合は、毎月支払わなければならない管理費および修繕積立金についても確認する必要があります。

 また、事業用ローンを利用して物件を購入した場合は、その返済も必要です。これらは空室であるか否かにかかわらず支払を請求されますので要注意です。管理費および修繕積立金の金額が異様に高額な収益用区分マンションがたまにありますが、手出し無用です。

 エレベーターおよびオートロックは、定期的な点検が必須です。築20年以上を経過している物件の場合、更新時期が近づいていて多額の更新費用が発生することがあります。これらの更新費用を支出したくないという理由により相場より安値で売られている物件がありますので、確認が必要です。

3.入居状況の調査

 家賃を滞納している方が入居している物件があります。収益用不動産を購入した途端、家賃を滞納し続けている入居者の存在が判明することがあります。

 賃貸保証会社(家賃保証会社)が入居者と家賃保証契約を締結している場合は代位弁済を受けられますが、家賃保証契約が締結されておらず、連帯保証人を立てている場合は連帯保証人が無資力であると代位弁済を受けられないことがあります。

 賃貸借契約を解約することになりますが、引っ越し先が見つからないという理由で賃貸借契約を解約しても部屋に居座る方がいます。このようなことになると明け渡し請求訴訟を提起し、最終的には強制執行をしなければならなくなります。訴訟および退去に要する費用は数十万円~100万円以上になることがあります。

 本来は家賃滞納者に請求できますが、無一文であることが多いのでオーナー様が負担しなければならないことがほとんどです。

 購入しても良いと考える収益用不動産が存在する場合でも、家賃を滞納して居座る方がいると訴訟リスクがあり、対応に相応の支出が必要になることが多いので要注意です。

 特に収益用区分マンション(1K、ワンルーム)の場合、入居者の家賃滞納が原因で運営破綻することがよくあります。家賃滞納者が居座り、家賃が全く得られない状況でも管理費・修繕積立金の支払、および事業用ローンの返済は待ってくれないからです。

 事業用ローンの返済が滞れば、抵当権者または根抵当権者が物件を差押え、任意売却されるか不動産競売にかけられることになります。物件は相場よりも極めて安く売られることから借金が残ります。残った借金が多額で返済できない場合は自己破産を迫られます。

  家賃を滞納している方が入居している物件は、物件の状態や環境などが良好でも手を出さないことが賢明なことが多いです。収益用不動産の運営に関する相応の経験がある方でなければ、手を出すべきではありません。

 繰り返しますが、特に家賃滞納者が居住している収益用区分マンション(1K、ワンルーム)に手を出すと、間違いなく身の破滅を招きますのでご注意ください。