収益用不動産として、心理的瑕疵がある物件を購入することは得か損か

 心理的瑕疵のある物件とは、建物の内部、共用部分、敷地において人が死亡し、死亡の態様がいわゆる「自然死(階段からの転落、風呂場での溺死等を含む)」ではない(殺人、自殺)物件、または死因にかかわらず死後に放置されたことから室内などが汚れ、特殊清掃を行った物件のことを言います。

 心理的瑕疵がある物件は市場流通価格よりもかなり安く査定されることから、かなり低廉な価格で購入することが可能です。東京都内では平均で20~30%安いです。駅近物件の場合はそれ程安くなりませんが、それでも5%前後安い価格で売買されています。

宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドラインに従うと...
 国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を定め、公布しました。このガイドラインでは賃貸物件において入居者を募集する際に、事故物件である旨の告知は人の死の発生(または発見)から3年間行えば良い旨が記載されています。

 つまり、事故物件であることを承知した上で収益用不動産を購入した場合、人の死亡(または発見)時から3年間は告知した上で入居者を募集することになりますが、3年が経過した以降は告知することなく入居者を募集できるようになりました。

物件を売却する際は、人の死亡時から3年以上が経過していても告知義務がある
 しかし、この収益用不動産を何年か運用し、売却する際には人の死亡(または発見)時から何年が経過していようと告知義務があることになりました。つまり、賃貸においては告知不要とされているにもかかわらず、売買では告知しなければならないという運用が行われています。

入居者からのクレーム対応が困難なことがある
 前述したとおり、賃貸物件の入居者募集に際しては人の死から3年が経過すれば、原則として告知義務はなくなります。このため、3年が経過したことから「人が死亡した物件であること」を告知されずに入居した方が、近隣の方から「人が死亡した履歴がある物件であること」を知った場合にトラブルになることがあります。

 特に困るのは「怪奇現象が頻発する」などのクレームです。クレームの内容は、誰でも必ず客観的に確認できる内容ではないことが大半であり、オーナー様、管理している不動産会社のいずれにおいても対応する術がないのが実情です。

 近隣の方から「人が死亡した履歴がある物件」であることを知った場合、実際には怪奇現象ではなくても心理的に怪奇現象であると考えてしまいがちです。単なる物音であり、怪奇現象ではないにもかかわらず、「怪奇現象である」としてクレームになる事案があります。

 入居者の中には「損害賠償を請求する」と主張する方がいますが、どのような怪奇現象が発生し、どれくらいの損失が発生したかを入居者が算出することは極めて困難であり、実際に請求されることは稀です。

 「人が死亡した履歴があるなら告知して欲しかった」と言われても、国土交通省が作成したガイドラインに沿った運用に従った取り扱いをしている以上、オーナー様や管理会社には落ち度はないことになります。多くの場合、入居者が自発的に退去して事案が終了します。

得か損かは一概に言えない
 収益用不動産自体は事故物件であることから安く購入できます。このため、投資金額を抑えながら賃貸不動産経営を行えます。

 しかし、この物件を売却する際には人が死亡した不動産であることを告知する必要があることから極めて低い金額で取引されることになります。賃貸の入居者には、人の死亡時(または発見時)から3年間の告知義務がありますが、売買の場合は無期限に告知が必要です。

 管理が面倒なことは否めません。人が死亡した履歴がある物件の場合、管理会社に管理を委託しようとしても断られることがあります。対応の方法がないクレームが発生することがあるからです。

 私が過去に相談を受けた事案の中には、怪奇現象が頻発したことから全ての入居者が一斉に退去し、その後に管理会社が管理契約を一方的に解約したというものがあります。このような場合、最終的にはオーナー様が自ら物件の管理を行わなければなりません。 

 明確に言えることになりますが、初めて購入する収益用不動産として、あえて事故物件を選ぶことはお勧めしません。