住宅ローンの返済が滞り、金融機関から任意売却を勧められた場合

新型コロナウイルス感染症がなかなか終息せず、6月13日現在、10都道府県に緊急事態宣言が発出されています。

最近は変異型ウイルスが登場し、間もなくデルタ型(いわゆるインド型、地名で表現するのは望ましくないとしてデルタ型と呼ぶようにとのことです)が国内にまん延する気配があるとの報道がなされています。

ご承知の通り、緊急事態宣言が発出された地域、及びまん延防止等重点措置が執られている地域では飲食店の休業要請および時間短縮営業の要請をされています。小売店等も大きく影響を受けており、大きく報道されていないのですが、勤め先の倒産、従業員の解雇や賃金カットが進行しています。

住宅ローンを利用して自宅を購入したものの、解雇または賃金カットにより金融機関に対する返済が困難になり、返済方法の相談をされた方が多くいらっしゃいます。

返済期間を長くして1回当たりの返済金額を少なくする、当面は利息のみを返済して元金の返済は半年または1年後から再開する等の緊急措置を受けている方が多くいらっしゃいますが、コロナ禍が長期化していることから金融機関から提案された返済条件でも返済不能の状況に陥っている方が多くいらっしゃいます。

このような状況に陥った場合、金融機関は不動産の売却を勧めてきます(というか、半ば強制的に依頼されます)。これが「任意売却」です。

任意売却において実施される内容(販売活動の開始まで)
住宅ローンの返済が続いた場合、金融機関または金融機関から債権譲渡を受けたいわゆるサービサーが「差押」の登記をします。地方裁判所に対し「競売開始決定」を求める訴えが提起され、不動産競売の手続きに移行します。

この時点で、多くの方はその後の対応を弁護士に依頼します。依頼を受けた弁護士は、提携している不動産会社(任意売却に精通している会社)に連絡します。任意売却に対応可能な不動産会社は限られており、どこの不動産会社でも対応できるものではありません。

また、任意売却を行う不動産会社は物件調査をして売却に向けた広告宣伝を行うだけではありません。抵当権者との複雑な交渉を行う必要があり、多大な時間と労力とを要します。このため「一般媒介」で受任することはほとんどなく、「専任媒介」または「専属専任媒介」により受任します。

売主の中には「大手を含む、多くの不動産会社に声をかけたい」として「一般媒介」を希望する方がいらっしゃいますが、任意売却では抵当権者との交渉窓口を一本化する必要があります。交渉の窓口が複数あると、抵当権者の協力を得ることが出来ません。それに前述したとおり、任意売却はどこの不動産会社でも行えるものではありません。

大手の不動産会社は対応しないところが多いです。営業担当に歩合制を採用しているため、営業担当者の大半は、多くの時間と労力を要する任意売却に及び腰です。

任意売却を行う際は、全ての抵当権者の同意を得なければなりません。依頼を受けた不動産会社は残債を確認し、全ての抵当権者に債権の損切りを要請します。住宅ローンを組む際に親族や知人からも融資を受けている場合は2番、3番等の抵当権が設定されていますが、全ての抵当権者と交渉して同意を得ることになります。

「債権の損切りには一切応じない」と主張する抵当権者がたまにいます。この場合は「競売が実施された際には落札額が低くなることがほとんどであり、回収できる金額が激減する、又は全く回収できない可能性がある」ことを伝えます。

全ての抵当権者における損切り可能額を取り纏め、その上で任意売却における売却価格を決定します。その後は売却先を大急ぎで探すことになります。

この時点で、不動産競売の実施日が接近していることがよくあります。この場合は特に急がなければなりません。

任意売却で売られる不動産は、誰がどのくらいの価格で購入するか
不動産会社は、大急ぎで売却先を探しますが、住宅ローンを利用して購入する方は「門前払い」になることが多いです。2週間~1ヶ月に及ぶ住宅ローンの審査期間を待てない上に、審査を通過出来なかった際には売主が多額の損失を被るからです。

このため、現金一括で購入できる資力がある不動産会社が購入することが多いです。大急ぎで換価しなければならない状況なので、購入する不動産会社の多くは強気です。物件の立地および状態によりますが、売却価格は市場流通価格の7~8割程度になることが多いです。

しかし、競売実施日までに売却できないことがあります。この場合は不動産競売になり、都心では市場流通価格の5~7割程度の価格で売却されることが多いです。

任意売却を勧められた場合
一日も早く、「任意売却」を開始することが得策です。売却が遅れると売却先の不動産会社が強気になり、かなり安く手放さなければならなくなります。

任意売却により不動産を売却し、抵当権者が分配を受けたとしても残債が残ることが多いです。この残債は、少額ずつであるとしても売主が金融機関に返済する必要があります。

任意売却後に返済しなければならない残債をなるべく少なくするためにも、任意売却を勧められた場合には早めに行動することが必要です。