不動産業を起業する場合、個人事業主、法人のいずれが有利か

不動産会社を新たに起業したいということで、相談される方がいらっしゃいます。そして多くの相談者から「法人を立ち上げると経理処理が煩わしいので個人事業主として開業したい。」と言われます。

しかし、法令の本則に従うと、個人事業主と法人とでは土地を譲渡した際において課税される税額が異なります。本則に従うと、取得した土地を5年以内に売却(短期所有)して譲渡益が発生した場合、譲渡益の一定額を分離課税されます。この税率はかなり高く、個人事業主の場合は譲渡益の52%または総合課税による上積税額の110%相当額、法人の場合は譲渡益の10%相当額が課税されます。

現在は租税特別措置法の適用により、いずれも他の所得と通算し、個人事業主の場合は総合課税、法人の場合は法人税として納税すれば足りるとされています。この措置は令和5年3月31日迄適用されます。

このため、現在は個人事業主であっても、短期所有した土地を譲渡した際に大きく課税されることはありません。ここのところ、租税特別措置法の適用期間が繰り返し延長されています。しかし、この延長措置がいつ終了してもおかしくありません

不動産業を開業した後に土地の売買を行う予定がある場合は、法人で起業することをお勧めします。

また、最初は個人事業主で起業し、ある程度の利益が出るようになってから法人成りすれば良いとお考えになる方がいらっしゃいますが、個人事業主として活動していた際に使用していた事務所や什器備品類の取り扱いが問題になります。

特に自身が所有する不動産を事務所として使用している方が法人成りする場合には、新しく設立する会社が個人に賃料を支払う、または法人に自己所有の事務所を購入してもらう必要があります。個人に賃料を支払う場合は「個人」に対する賃料収入が発生します。また事務所を購入させる場合は譲渡益が発生します。いずれの場合でも課税対象になります。

さらに、通常は宅地建物取引業協会、または全日本不動産協会に入会して都道府県知事免許を取得しますが、法人成りの場合は、法人として改めて宅地建物取引業協会または全日本不動産協会に入会する必要があり、高額な入会金を再び支払う必要があります。

また、都道府県知事免許についても法人名義として再取得することになりますが、免許番号に併記される更新回数は(1)になります。免許番号に併記される更新回数は、数が多ければ長期間営業している不動産業者であるということで信用になりますので、(1)にしてしまうと信用の低下に繋がることがあります。

その他にも法人の方が有利になる点が多くあります。

結論ですが、不動産業を起業する際には個人事業主ではなく、法人として起業することを強くお勧めします。