リースバックによる住宅売却は要注意

2023年5月16日

 産経新聞のWEBサイトから引用します。

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リースバック悪用、高齢者狙う 安く買い取り、高い賃料請求 自宅売却トラブル増

2023/5/12 19:18
吉沢 智美

 自宅を売却後、買い主に賃料を支払うことで居住し続けることができる「リースバック」と呼ばれるサービスなどを巡り、高齢者の不動産売買トラブルが増えている。サービスを悪用し、不当に安い価格で買い取る手口などが横行。ただ、契約の取り消しを認めるクーリングオフの対象ではないため、被害者側は自宅などを手放すか、高額の違約金を支払って契約を解除するしかない。第二東京弁護士会(小川恵司会長)は被害事例の収集・分析を行い、被害防止に向けた立法措置の提言に乗り出す。

 国民生活センターによると、全国の消費生活センターに、60歳以上から寄せられた自宅売却トラブルの相談は平成30年以降、毎年600件以上に上る。中には約9時間居座られた末に署名・押印してしまったケースや、売却契約の翌日にキャンセルを申し出たところ、約900万円の違約金を求められたケースもあった。

 トラブル増加の背景の一つとなっているのが、リースバックの悪用だ。住み慣れた家を離れず老後の資金を確保できるとあって高齢者の利用が増えている取引だが、悪徳業者が、不動産売買の知識に乏しい高齢者を狙い、強引に契約を迫る事例が増えている。

 第二東京弁護士会消費者問題対策委員会によると、不当に安い価格で不動産を売却させられたり、利用者が払う賃料を市場価格よりも割高に設定されたりするトラブルも多い。

 国土交通省が公表したトラブル事例では、事業者から、「10年後には取り壊される」という虚偽の説明を受けた高齢者が、自宅マンションを約2千万円で売却。家賃を約20万円に設定され、10年居住すれば売却代金を上回ることから、キャンセルしたい旨を伝えたところ、「キャンセルできない」と言われたという。

 売買契約書の特記事項に賃料が小さく記載されているだけのものもあり、同委員会委員長の藤田裕弁護士は「賃料が必要だと知らずに契約してしまったケースもある」と話す。リースバックの場合、売却後も自宅に住み続けることができるため、長期間被害に気が付かない可能性もある。

 同委員会によると、被害を訴えたとしても、対象が高齢者であるため契約内容を把握することが難しいうえに、契約書自体には署名押印をしてしまっていることから、被害が拡大しているのが実情だ。 

 特定商取引法の訪問購入に関する規定では、不動産取引はクーリングオフの適用対象外。宅地建物取引業法にもクーリングオフの規定はあるものの、「売り主」が不動産業者の場合のみで個人には当てはまらない。リースバックに関するトラブルは救済されにくい。

~以下、略~

産経新聞

 リースバックとは、依頼者の自宅等を不動産会社が安く買い取り、賃貸物件として依頼者に貸し出すことを内容とする不動産取引です。老後の生活費に困った高齢者が利用する事案が多いです。

 また、事業用ビルを自社で保有している企業の資産状況が悪化した場合に利用されることがあります。この場合は不動産会社が事業用ビルを一括で買い取り、その後は元の企業が入居したまま家賃を毎月徴収します。外形的には元の企業が入居したままなので、資産状況の悪化を外部にあまり知られたくない企業が利用します。

 以前、筆者の会社にもリースバックによる事業用ビルの買い取り依頼がありました。しかし、40億円もの資金を一括で支払う必要があり、さらに入居中の企業がいつ倒産してもおかしくない状態でした。これらの理由により断念しています。

 リースバックに関するトラブルの原因は、依頼者がリースバックのシステムを理解できていないのに契約を締結したことにあります。特に老後の生活費を工面できなくなった高齢者が利用し、トラブルに巻き込まれています。

 具体的な問題点を分類すると以下の通りです。

●大半の場合に、買い取り金額が市場流通価格よりもかなり安くなるが、これを告知されない
 リースバックを引き受ける不動産会社は不動産を安く買い取り、高値で転売することを考えています。このため、買い取り金額は相場よりもかなり安くなります。買い取り金額が相場より安いことを告知しない不動産会社が多いことが問題です。

●買い取り後、依頼者が毎月支払う家賃が付近の相場よりも高いことが多い
 長年住み慣れた家から転居したくないという心情につけ込み、相場より高額な家賃を設定するところがあります。あらかじめ、付近の家賃相場を調べておくことが必要です。

●クーリングオフの対象外
 宅地建物取引業法におけるクーリングオフは買主を想定しています。売主は適用外です。また、特定商取引法は不動産取引を適用対象外としています。契約書に署名・捺印すると、高額な違約金を支払わなければならなくなります。(2023年5月16日追記:違約金の支払いが必要になるのは、売主が契約を取り消す場合です。)

法改正または新法の制定が必要

 宅地建物取引業法は違約金の上限を取引価格の2割としていますが、これは売主が宅地建物取引業者である場合に適用されます。一般の個人が売主の場合は契約書に記載された金額が適用されます。違約金の金額が物件価格の3割、または5割に定められていても、これは有効な内容として取り扱われます。

 高齢者を保護するために、法改正または新法の制定が必要であると思います。現在、国土交通省において法改正に向けた動き(PDFファイル)がありますが、それまでの間は安易に契約しないように注意する必要があります。

 契約書を細部まで注意して読み込み、理解できない場合は理解できるまで営業担当者に質問することが重要です。不動産売買契約のみに注目しがちですが、賃貸借契約の内容にも注意が必要です。

 営業担当者が質問に答えられない、または契約内容を理解できない場合は契約を締結しないことをお勧めします。