賃借人が行方不明になった場合(オーナーの負担を小さくできる可能性)

昨日の投稿では、賃借人が行方不明になり、家賃が滞納されている場合は原則として裁判を提起して退去させることになると書きました。

賃貸借契約が有効である以上、オーナーといえども賃借人の室内に勝手に立ち入ることはできません。立ち入る際には正当事由が必要です。

郵便受けにチラシなどがたまっていて、近隣の部屋の住人が「引っ越したらしい」と言っていたとしても、それだけでは「退去した」と言えるだけの確証にはなりません。滞納が続いているためにオーナーが賃貸借契約を解除したくても、賃借人である相手の居所がわからなければ解除の意思は伝わりません。

所持する合い鍵を使用して部屋のカギを開け、室内を確認したいと考えるオーナーが大半ではないかと思います。しかし、法的根拠がないのに賃借人の部屋に立ち入ることは違法行為です。

立ち入ると、ほとんどの場合に何らかの痕跡が残ります。後で賃借人が現れ、「置いてあった家財がない」などと騒いだ場合に申し開きができません。そればかりか、裁判による明け渡し請求をする場合に極めて不利になります。

家財が残っている場合は賃借人による占有が継続しているといえます。この場合は明け渡し請求の裁判を提起し、最終的には強制執行まで行うことを考えておく必要があります。残念ながら、これを避ける方法はありません。

しかし、室内の家財が全て持ち出され、空室の状態である場合は、賃借権が放棄されて占有は解除されたと考えることができるかもしれません。裁判を提起し、明け渡しの確定判決を得て強制執行をする必要がなくなれば、解決するために必要な日数は大幅に短縮されますし、費用も大幅に節約できます。

ということで、オーナーの負担を少なくするためには、オーナーが室内を点検する場合がある旨を賃貸借契約書の特約として入れておくことが有効と考えられます。

具体的には、「賃借人が賃貸人に連絡することなく長期間不在であり、賃貸人からの連絡ができない場合において、オーナーまたは管理会社が物件の管理および設備の保守のために物件内に立ち入る必要があると判断した場合は、賃貸人は物件内に立ち入ることができる。」などの文言を特約条項として挿入することになります。

この文言を特約条項として賃貸借契約書に挿入した場合でも、オーナーはむやみに賃借人の部屋に立ち入ることは認められません。長期(目安は1月以上でしょう)にわたり行方が分からず、賃料が滞納されており、電気のメーターが回っておらず、郵便受けはチラシなどであふれている状況の場合には、初めて立ち入ることができると考えるべきです。そして、立ち入る際には必ず複数人で立ち入り、立ち入りの日時および室内の状況を記録に残しておく必要があります。

物件の内部が「空」である場合は、賃借権が放棄されて占有は解除されたと一応は考えられます。オーナーにおいて鍵を交換し、新たな賃借人を募集することができます。

ただし、電気およびガスの契約が解約されているかを確認する必要があります。これらの契約が解約されておらず、室内に不審な痕跡(血痕など)があるのを見つけた場合は、賃借人が行方不明になった経緯に事件性が疑われます。このような場合は、ためらわずに警察へ通報することをお勧めします。