街中の不動産会社に「追い出し」を依頼されても...

 筆者の不動産会社は街中にある小さな会社です。たまに相談されるのは、賃貸アパートまたは賃貸マンションの入居者を追い出して欲しいというものです。

 最近多いのは家賃を滞納している借主の追い出しではなく、「賃貸アパート(マンション)を建て替えたい」、または「解体して更地にした土地を売却したいので全ての入居者を追い出したい」というものです。

 オーナー様から依頼されることがありますが、物件をオーナーから買い取る不動産会社から依頼されることもあります。

 誰でも知っている大手の不動産会社が「弁護士に依頼すると高くつくので街中の不動産会社に依頼するのがお勧めです。」とオーナー様に指南しているという話を聞いたことがあります。

 「全て追い出してくれたら、解体後の土地に関する売却を専任媒介で御社にお願いします」とか「再建築した後の建物に入居する方(賃借人)の募集を専任媒介でお願いします」等とオーナー様から言われることがあります。

 有効に存続している既存の賃貸借契約を貸主の都合により貸主側から解約し、賃借人を退去させる際には立退料等に関する交渉が必要です。この交渉を不動産会社が行うことは弁護士法が禁止するいわゆる非弁行為です。弁護士登録をしている弁護士でなければこの交渉を行えず、違反した場合には罰則が定められています。

 オーナー様の中には「弁護士に依頼すると高額な弁護士報酬を支払わなければならず、立退料も高額になりがちだが、不動産屋であれば専任媒介や管理をちらつかせれば実質的にタダで請け負ってくれるし、立退料も極めて安くて済む」とお考えの方がいらっしゃるようですが、移転には相応の費用が発生します。その費用である立退料、および交渉に対する報酬をほとんど支払わずに済ませようというのは「虫のいい話」です。

 前述したとおり、立退料等に関する交渉を不動産会社が行う行為は弁護士法に違反します。宅地建物取引業免許の免許権者(都道府県または国土交通省)から事務停止処分または免許取消処分を受ける恐れがあり、全く割に合いません。筆者の会社では全てお断りさせていただいています。

 物件をオーナーから買い取ることを約束している大手または中堅の不動産会社から同様の依頼をされることがありますが、そのような不動産会社は不法行為を他社に丸投げし、自社だけは知らぬ顔をしたいと考える卑怯な会社なので、全て即刻お帰りいただいています。

 家賃を滞納している等、「賃貸人および賃借人相互の間の信頼関係を破壊する行為」がなければ、借地借家法により賃貸人側から賃貸借契約を解約することは認められていません。それを違えて賃貸借契約を解約し、立ち退きをお願いする場合の交渉は弁護士に依頼されるようにお願いします。