不動産会社には「追い出し」の権限はない(賃貸物件)

本日書くのは、私の会社がある東京都内における話です。東京以外の不動産会社の方からは「馬鹿なことを言っているね。こちらでは通用しない。力ずくで行動して当たり前。」等と言われるかもしれません。

しかし、以下に書く内容は、2~3年後には東京以外でも適用されるのが社会通念になるかもしれません。

私の会社における不動産相談で、時々あるのは家賃滞納やトラブルを起こす借主を退去させたいという内容です。賃貸マンション、賃貸アパートのオーナーから「家賃を滞納している借主を追い出して欲しい。」とか「他の居住者や近所の方とのトラブルが絶えない借主を追い出して欲しい。」等の相談です。「力ずくでも構わないから追い出して欲しい。」と言われることもあります。

あまり知られていないかもしれませんが、法律上、不動産会社には借主を「追い出す」権限はありません。借主に対し、退去に向けた交渉を行うことは弁護士または司法書士(滞納家賃等が140万円以下の場合)の専管事項であり、不動産会社には「追い出し」は勿論、交渉を行う権限もありません。不動産会社ができるのは、オーナーの使者として「オーナーが退去して欲しいと言っている。」等を伝えることだけです。

不動産会社が「追い出し」を行い、報酬を得る行為を業として行った場合は、弁護士法第72条が規定する非弁行為として処罰されます。無報酬の場合は弁護士法には抵触しませんが、いわゆる「謝礼」であっても金品の授受が行われれば非弁行為と見做されます。全くの無報酬で不動産会社が請け負うことはなく、業として行われたものと推定されてしまうのが世間の常識なので、司法の場に持ち込まれた場合は、不動産会社による「追い出し」は、大半の場合に非弁行為であると評価されてしまいます。

オーナー様には「借主の追い出しを依頼する先は弁護士または司法書士であり、不動産会社ではない。」と説明するのですが、「弁護士に頼むと日数がかかり、費用もかかる。力ずくで追い出せないか。」とか「追い出し屋に頼むわけにはいかないのか。」等と言われることがあります。

家賃を滞納している借主が不在の間に、オーナーや不動産会社がドアの錠前を交換して入室できなくした、室内の家財を道路上に放り出した、家財を勝手に全部捨てた等の話をよく聞きます。残念ながら、このようなことを行うのは当たり前であると考えているオーナーや不動産会社はまだ多いようです。

しかし、ここ2~3年の間に、東京ではこのような行為をされて黙っている方は少なくなったと感じています。法律を知っている借主はためらわずに警察に通報します。オーナーであっても住居不法侵入罪や窃盗罪に問われかねませんし、多額の損害賠償を請求されることがあります。

単身者が居住するアパートの家財をオーナーが勝手に捨てたことから民事裁判になり、損害賠償として300万円以上を支払うよう、オーナーが裁判所から命じられた事案があります。勝手に捨てると大変な目に遭います。

「追い出し屋」は現に存在します。「自分たちを利用して欲しい。多少手荒なこともできる。」等の電話がたまにあります。しかし、多くはいわゆる反社会的勢力と繋がっているので、私の会社では出入りをお断りしています。

「追い出し屋」の利用の有無を問わず、暴力沙汰になると警察に通報されることがあります。実行したのが誰であろうと、借主がオーナーや不動産会社を傷害罪等で告訴することがあります。暴力沙汰に不動産会社が関わったことが明らかになると、その不動産会社には一発で業務停止命令が出ます。

ということで、私の会社ではオーナー様等から「追い出し」を請け負うことはありません。家賃保証会社が介在する場合にはそちらに一任しますし、そうでない場合は必要に応じ司法書士や弁護士の先生方を紹介し、法的解決に向けたアドバイスをさせていただいています。