困った相談(その1、家賃滞納者に対する対応の依頼)

 賃貸マンションおよび賃貸アパートのオーナー様から受ける相談の中には対応に苦慮する、または対応の方法がないのでお断りするしかないものがあります。

 その中でもよくあるのは「家賃を滞納している入居者を追い出して欲しい」というものです。「鍵を貸すので部屋を開け、家財を倉庫に移動して欲しい」とか「追い出し屋を呼んで追い出して欲しい」、あるいは「多少手荒な方法でも構わないので力ずくで追い出して欲しい」と言われることがあります。

 このような依頼をされるオーナー様の物件はオーナー様が自ら管理を行い、管理の外部委託をしていないことが多いです。

 このブログにおいて以前に投稿したとおり、家賃を滞納しているからといって賃借人を力ずくで追い出すことは法律が禁止する自力救済にあたります。オーナー様が部屋の家財を勝手に捨てたことから損害賠償を求める裁判が提起されるとオーナー様が敗訴し、損害賠償の支払いを命じられることがあります。

 追い出し行為が暴行、傷害、監禁罪等の要件を満たす場合は刑事罰が適用されることがあります。オーナー様が力ずくでの追い出しを依頼した場合には、これらの犯罪の共犯または教唆犯として処罰されることがあります。

 暴力的な方法を用いず、「引っ越し代を渡すから退去して欲しい」と賃借人に提案する交渉を依頼する場合でも、そのような交渉は不動産会社では行うことが許されていません。いわゆる「非弁行為」にあたるからです。このような交渉を行う権限は弁護士にしかありません。違反すると弁護士法により処罰されることになります。

 東京の郊外にある不動産会社の社長から「力ずくの追い出しは当たり前。多少であれば殴る蹴るも当たり前。それが出来なければこの地域では一人前の不動産会社とは認めてもらえない。入居者が警察を呼んでも警察官が入居者に『家賃を滞納しているあなたが悪い』と告げて終わり。ここはそのような土地柄だ。」と言われたことがあります。

 しかし、東京都区内ではこのような展開はあり得ません。近い将来において、郊外または他のエリアでも「力ずくの追い出し」は行えなくなると考えています。

 ご存じの方が多いと思いますが、あおり運転を行った後に傷害沙汰を起こした事件の一部始終がドライブレコーダーに記録され、大きく報道されました。この事件をきっかけとして警察および行政が「あおり運転」の取り締まりを積極的に行うようになりました。事件前は、「あおり運転」の被害に遭ったことを警察に申告しても「けんもほろろ」という対応をされることが多かったのですが、対応は大きく変わりました。

 何らかの事件が発生すると行政は予告なく突然態度を変え、厳しく対応することがあります。今後「追い出し」の際に被害者が死傷する事件が発生した場合には、「追い出し」は厳しく取り締まられることになると考えられます。 

 また、追い出し屋は反社会的勢力の構成員、または関係者であることが多いので、この点も要注意です。

どうしたらよいか

 家賃の滞納が3か月程度続いた時点でオーナー側から賃貸借契約を解約します。連帯保証人がいる場合、滞納家賃は連帯保証人に請求します。

 その後も家賃を支払わず、退去要請にも応じない場合は 家賃の滞納が3か月以上継続した時点で明け渡し請求を求める裁判を提起し、明け渡し請求を認める判決を得て強制執行を行います。合法的に対応するのであれば、このような方法になります。

 解決までにかなりの日数を要し、相応の裁判費用が発生しますのでオーナー様が「追い出し」にこだわる気持ちもある程度は理解できますが、現行の法制度の下では仕方ないと言えます。

不動産会社を通し、入居審査をしっかり行う

 家賃滞納は、一旦発生すると後始末が大変です。入居審査をしっかり行う事が重要です。そのためには不動産会社を通して契約することと、賃借人に対し賃貸保証会社(家賃保証会社)と保証契約を締結するように求め、入居審査(過去の滞納歴などの調査)を賃貸保証会社に依頼すること等が考えられます。