困った相談(その8、借主の学歴を限定した入居者募集の依頼)

 賃貸物件の入居者を探して欲しいとの相談を受ける際に、借主の学歴にこだわるオーナー様がいらっしゃいます。

 具体的には「入居者を東京大学、東京工業大学、慶應義塾大学のいずれかに通学している方か、卒業した方に限定して欲しい。」と言われることが多いです。

 その理由を尋ねると、「有名な難関大学の学生は身元がしっかりしていることが多く、家賃を滞納する親御さんはまずいない。また、これらの大学の卒業生であれば勤務先を解雇されることはまず考えられないし、仮に解雇されても次の就職先はすぐに見つかると思うから。」と言われる方が多いです。

 このようなことを言われるオーナー様がかなり多いので驚きます。世の中を知らなすぎます。いわゆる有名大学の卒業生であっても容赦なく解雇される世の中であり、解雇されたら次の就職先はなかなか見つからないことが増えています。

 新型コロナウイルスの蔓延およ長期化が社会に及ぼしたマイナスの影響は凄まじく大きく、景気は急速に悪化しています。入居者の学歴と家賃を滞納する可能性とは無関係であると言えます。

 通学している、または卒業した大学を特定して入居者を募集するとしても、募集方法がありません。「出身大学により入居が認められないことがあります」などとレインズまたはポータルサイトに掲載することは道義的に許されません。

 それに、入居審査の際に「貴殿はオーナー様が定める大学の出身者ではないので入居出来ません。」等と告げようものなら、「差別された」として慰謝料請求を求める裁判を提起されることにつながります。裁判を提起された場合、オーナー様及び不動産会社は確実に敗訴します。

 現に「外国人である」という理由により入居を認めなかった事案について慰謝料請求を内容とする裁判が提起され、オーナー様が敗訴した事案(京都地判平19.10.2)があります。

 「高齢者、生活保護を受けている方、外国人の入居を認めない行為は差別行為であり許されない。管理業務を請け負う不動産会社はオーナーを啓蒙して欲しい。」というのが行政(都道府県)の一貫した態度です。

 私の会社では「学歴を限定して入居者を募集する方法が存在しない上に、不当な差別と捉えられるので学歴を限定した入居者募集はお受け致しかねます。」と告げ、考えを改めるように進言しています。

 それでも「納得できない。私の希望通りに学歴を基準に入居者を募集して欲しい。」と言われるオーナー様がたまにいらっしゃいます。このようなオーナー様からの入居者募集依頼は丁重にお断りしています。