収益物件のオーナーには、管理会社を監督する義務がある

不動産賃貸業を営む方の中には、本業が別である方が多くいらっしゃいます。また、新型コロナウイルス感染症がなかなか終息しないことから本来の生業を縮小または廃業して損失を一旦確定させ、残った資産を活用して収益用不動産を購入し、不動産賃貸業を始める方が多くいらっしゃいます。

特に、不動産賃貸業が副業である方、または不動産賃貸業を最近始めたばかりで不動産賃貸業が未経験である方は、収益物件の管理(通常は賃貸仲介・管理専門の不動産会社)を管理会社に委託するのが通常です。

ところが、オーナーが管理業者に管理を任せきりにすることによるトラブルが増えています。

後述しますが、オーナーには使用者責任があります。入居者が法的手段に訴えた場合、管理会社だけではなくオーナーも損害賠償責任を追及されることがあります。「家賃だけを貰えれば良く、後は管理会社に丸投げ」という姿勢で放任することはお勧めしません。

管理会社が起こすトラブル
賃貸物件の入居者募集時におけるトラブル
不動産賃貸の仲介手数料や管理費だけでは採算が合わないとして、常識を越える金額の鍵交換費用およびハウスクリーニング代を入居者に請求する賃貸仲介・管理の専門業者(以下、管理会社)があります。

管理会社からハウスクリーニングを勧められたことから「ハウスクリーニング」を行ってもらったところ、得体の知れない缶入りスプレーを噴霧しただけであったとか、酷い場合は何も行わないのにクリーニング代を請求された等のトラブルがあります。

また、入居者には損害保険に加入してもらうことが特約で定められていることが大半ですが、保険会社およびプランの内容については入居希望者に決定権があります。しかし、保険会社や加入プランを指定する管理会社があります。「お勧め」として提案する行為を超える行為は保険業法違反に問われることがあります。

管理会社は、副業として保険会社の代理店を行っていることがよくあります。自社が提携している保険会社で契約してもらい、高額な保険プランに加入してもらえれば、管理会社は保険代理店としての利益を多く得ることができます。このため、保険会社や加入プランを強引に指定する管理会社があります。

高額な鍵交換代を請求する管理会社があります。物件資料に「鍵交換費2万円」等と記載する物件において鍵を交換してもらったところ、明らかに誰かが使用していた傷だらけで錆がある古い鍵を渡された等のトラブルです。

同一のオーナーが所有する物件同士で錠前を使い回しているのでしょう。多くの場合、鍵屋さんに渡すのは数千円程度でしょう。鍵屋さんを利用せず、オーナーから預かった古い錠前に管理会社の社員が交換するところがあります。このような管理会社では、鍵交換代の大半を管理会社の収入にしているものと思われます。

その他にもインターネット等を利用するか否かにかかわりなく、特定のプロバイダやケーブルテレビ契約への加入を強制される等のトラブルがあります。

賃貸物件の入居者が退去する際のトラブル
家賃10万円に満たないワンルームマンションにおける賃借人が退去しようとしたたところ、原状回復費として70万円を超える金額を請求された方がいらっしゃいます。オーナーに確認したところ「管理会社に任せているから内容はわかりません。請求されたのであれば支払ってください。」と言われたとのことで、この件は賃貸仲介業者の間で話題になりました。

問題なのは、原状回復工事の内容です。室内クロスの全面張り替え、エアコン・ユニットバス・湯沸かし器・トイレ便器の新品交換代が含まれていたとのことです。

知り合いの不動産業者に意見を求めたところ、「故意に壊したなどの事情がなければ、エアコン・ユニットバス・湯沸かし器・トイレ便器等の新品交換を賃借人に求めることはおかしいし、工事の内容に対する請求金額は相場を大きく超えており、これもおかしい。」との回答があったとのことです。賃借人が管理会社に「別のリフォーム会社に見積もりをしてもらい、自分はこの会社に直接発注する。」と伝えたところ、管理会社から「指定したリフォーム会社以外の会社による原状回復工事は認めない。請求した金額をそのまま支払え。」と言われたとのことです。

この賃借人は、請求された経緯および管理会社とのやりとりをネット上の掲示板に掲載(現在は削除)しました。この事案には報道機関による取材が行われ、投稿内容はほぼ事実であることが判明しました。その後は債務不存在の確認訴訟が提起され、裁判上の調停を経て最終的には和解で解決したようです。

この管理会社は退去時に多額の原状回復費を請求することで、業界内では以前から悪評がありました。このため、私の会社ではこの管理会社が管理する物件への客付けを避けていました。

オーナーが管理会社を利用する際には使用者責任がある
民法第715条第1項は、使用者責任を定めています。管理会社が賃借人に対し不法行為を行った場合、オーナーは使用者責任を追及され、損害賠償を請求されることがあります。また、本来は賃借人に請求するべきではない費用を請求した場合は、刑法上の詐欺罪に問われる可能性があります。

「退去時における原状回復工事は管理会社が指定するリフォーム業者に発注するものとし、賃借人による他社への発注は認めない」とか「退去の際には原状回復として機器の新品交換を賃借人の費用負担で行う」等を賃貸借契約書の特約として契約書の中に定めても、消費者契約法第10条に反する特約なので無効です。

賃借人が法律に詳しい場合、または賃借人の知人に弁護士がいる等の場合は、管理会社だけではなくオーナーも訴えられることがあります。

賃貸物件の管理を管理会社に委託する際には、管理会社が入居希望者に請求する内容や原状回復時のリフォームをどのように行うかについて、よく確認しておく必要があります。