不動産会社を利用せず、売主から不動産を直接購入することの是非

売主様からの相談で発覚することがある
売主様から売却を依頼された不動産の売却情報をポータルサイトに掲載すると、不動産会社ではなく売主に対し、直接問合せをされる方がいらっしゃいます。問合せがあったということで、売主様から相談を受けることがあります。

不動産登記簿謄本を取り寄せ、売主の住所を調べて直接訪問する、何らかの方法で電話番号を調べて連絡する等を行う購入希望者がいます。

多くは、「不動産会社を通すと仲介手数料が発生しますが、私と直接取引すれば仲介手数料は不要になります。仲介手数料をお互いに節約しませんか。」とか、「1日でも早くお金が欲しいのでしょう。価格を500万円安くしていただければ即日契約します。その代わり不動産会社の仲介を断り、私と直接契約してください。」というものです。

不動産の売却情報をポータルサイトへ掲載する行為は、宅地建物取引業免許の交付を受けた不動産業者しか行うことが出来ません。この情報を見た方が売主と直接交渉することは、売主と不動産仲介業者との間に専属専任媒介契約が締結されている場合を除き、違法ではありません。しかし、不動産会社を通さずに購入すると、その不動産を購入することによるリスクや価格の根拠を十分に知ることが出来ません。

不動産価格が400万円を超える場合における仲介手数料は、不動産価格の3%に6万円を加算し、更に消費税を加算した金額になります。例えば5,000万円の不動産を売却する際における仲介手数料は税込1,716,000円なので、一見すると高額であり、節約したくなる気持ちはある程度理解できます。

しかし、仲介手数料には売買の目的となる不動産そのものと権利関係に対する調査費、重要事項説明書の作成費、売買契約書の作成費、担保権が設定されている場合や権利関係が複雑な場合における対応策の検討に要する費用、所有権移転登記を安全に行えるかの確認に対する費用などが含まれます。不動産業とは無関係の方が不動産会社を利用せずに売主から不動産を直接購入することは無謀であり、危険です。

例えば、抵当権や根抵当権などが登記されている場合に、大半の方はこれらの登記を外す方法を知らないと思います。担保権者との話し合いが必要ですが、不動産業と無関係の方がこの交渉を行うのはかなり困難です。

また、「所有権移転仮登記」、「差押」などの、いわゆる「危険な登記」が行われている不動産があります。登記の内容を理解せずに不動産を購入することは危険です。このような登記がある場合に、問題の登記を外せるかについても、不動産業と無関係の方にはほとんどわからないと思います。

不動産の値引きを引き出す方法を誤ると売主を激怒させ、交渉は決裂する
「不動産屋に任せると、中途半端な値引きしか引き出せないのではないか。自分が売主と直接交渉すれば、より大きな値引きを引き出せるに違いない。」と過信する方がとても多いのですが、売主と直接交渉すると、ほとんどの場合に不首尾に終わります。

物件の欠点を片っ端から数多く取り上げ、「こんなに欠点だらけの物件なのだからもっと安くして当然。」と主張して値引きを迫る方がいます。物件の欠点ばかりを強調すると売主は気分を害します。「この人には売りたくない。」と思うので、売主から交渉を打ち切られてしまいます。

さらに関係者が全員集合し、これから重要事項説明または契約を行う直前に大幅な値引きを要求する方がいます。このような要求をする方は「関係者は契約を早く終わらせたいはずだから、重要事項説明や契約の直前に値引きを強く求めれば値引き要求を受け入れてくれるに違いない。」と錯覚しているのだと思います。

「買主はお客様であるから、売主は買主の要望を聞き入れるはず。」と思い込んでいるのでしょうが、重要事項説明や契約の際に値引き要求をしても、大半の売主は丁重にお断りします。

すると購入希望者の中には「俺は客だ。神様だ。神様の言うことが聞けないのか。」等と、大声でまくし立てる方がいます。当然ですが売主は激怒し、交渉はほぼ確実に決裂します。

不動産の売買契約は、売主および買主相互の信頼関係により成立します。売主と買主とは平等ですが、「買主が上位に立つ」との誤った理解をしている方がとても多いです。このような方が売主と稚拙な交渉を行い、売買契約を不成約にしてしまいます。

まとめ
不動産の価格交渉は仲介を行う不動産会社に任せるべきです。素人が対応できるものではありません。値引き交渉はプロに任せることをお勧めします。

また、購入希望者が売主と直接交渉して売買契約を成立させた場合、その不動産を最初に紹介した不動産会社がある場合は、その不動産会社は売主および買主の双方に仲介手数料を請求できます。

不動産会社に仲介を依頼することなく締結された売買契約に基づく所有権移転登記を司法書士に依頼した場合、司法書士により、取引に不動産会社が介在していないことを理由として登記申請の代行を拒否することがあります。この点からも、購入希望者が不動産会社を利用せずに売主と直接交渉して不動産を購入することは避けるべきです。