賃貸アパート、マンションが不動産競売、借主は?

 収益用不動産(区分マンション)を不動産競売で購入した方から、「借主に退去をお願いしたが断られた。どうしたらよいか。」との相談を受けました。

相談内容

 収益用不動産(区分マンションの一室)が不動産競売にかけられていたので入札し、落札しました。裁判所が作成した資料によると賃料が相場より安く、室内がかなり荒れている写真が添付されていました。

 このため入居者に退去してもらい、全面的なリフォームを行った上で新しい入居者を募集したいと考えています。賃料も相場より若干高く設定することを考えています。

 現在の入居者は抵当権が設定された後に入居を開始した方です。元の所有者(オーナー)は事業用ローンを利用してこの物件を購入したものの、ローン返済を滞納しました。金融機関から一括返済を求められ、不動産が差押登記を受け、最終的に不動産競売にかけられました。

 所有権移転登記が完了した後、借主に退去をお願いしたところ、「借地借家法により自分は保護されるので退去しない。」と主張し、退去に向けた話し合いを一切拒否しています。

 また、交渉により退去を承諾してもらえた場合、原状回復を求めることはできますか。

※相談者のプライバシーに配慮し、事案をアレンジしています。

 確かに借主の権利は借地借家法により保護されています。しかし、担保権(抵当権または根抵当権)と賃借権とが正面からぶつかる場合にいずれを優先するべきかが問題になります。

 この場合は担保権(抵当権または根抵当権)と賃借権のどちらが先に設定されたかにより決することになります。つまり、担保権の設定が先であれば賃借権より優先することになります。

 元のオーナーはこの収益用不動産を購入するのに事業用ローンを利用しました。当然ですが、金銭の借受を受ける際に抵当権または根抵当権を収益用不動産に設定し、登記をしています。

借主を退去させることが出来るか

 この事案では、入居開始の時期が抵当権の設定登記後なので、担保権(抵当権または根抵当権)が賃借権より優先します。このため、競落した新所有者は借主に退去を要求できます。

 ただし、6か月間の明け渡し猶予期間を与えなければなりません。この期間は「賃料相当額損害金」として1か月分の賃料及び管理費等の合計額を新所有者が借主に請求できます。

 借主が賃料相当額損害金を一度でも支払わなかった場合、または6か月の明渡猶予期間を経過しても居座る場合は地方裁判所に強制執行の申し立てを行い、退去させることができます。ただし、家財の搬出・運搬・保管に要する費用、応分の費用が発生します。

費用は誰が負担するか

 法律上、これらの費用は元の所有者に請求できます。しかし、元の所有者は無一文同然であることがほとんどです。したがって、ほとんどの場合に新しく所有者になった方が負担することになります。

 また、借主は敷金および引越費用を誰に請求できるかという問題があります。法律上は元の所有者に請求できます。しかし、元の所有者は無資力であることが大半です。この場合、借主は敷金の返還を受けられず、引越代も自腹で負担しなければなりません。また、新しい所有者に返還を求めることはできないとされています。

借主に原状回復義務はない

 新所有者は、借主に原状回復を求めることはできません。その理由は、新所有者と借主との間に締結されている賃貸借契約が存在しないからです。

 原状回復は、あくまでも賃貸借契約の特約として記載されている場合に貸主が借主に要求できます。賃貸借契約が存在しない場合は原状回復を求めることはできません。「原状回復を要求できる」と勘違いされている方が大変に多いので、指摘しておきます。

入居開始が抵当権の設定登記より前の場合

 事例とは異なりますが、入居開始の時期が抵当権の設定登記前の場合は賃借権が担保権(抵当権または根抵当権)より優先します。新所有者は賃借人の退去を求めることができません。元の所有者が借主と締結していた賃貸借契約は、新所有者と借主との間でそのまま承継されます。