コロナ禍で家賃を滞納する借主への対処(賃貸住宅オーナー様へ)

2021年7月27日

ご承知の通り、コロナ禍がなかなか収束しないために企業の倒産、廃業が増えています。減収減益になった企業は大変に多く、勤務先の解雇、賃金カットを受けた方が急増しています。

間違いなく、今後は家賃の滞納者が全国的に急増します。国や都道府県、地区長村による各種支援策がありますが、これを十分に活用したとしても、毎月の家賃を支払えない方が続出することは避けられません。

賃貸物件の土地や建物を購入する際に金融機関より融資を受け、毎月得られるの賃料収入の中から借入金を返済しているオーナーが大半ではないかと思います。多くの借主に滞納されると金融機関に返済できなくなり、最悪の場合には破産を招くことが容易に想定できるため、不安感をかなり募らせているオーナーが多いと思います。

家賃を滞納するかもしれないと言われた、または滞納が発生した場合

原因をよくお訊きになり、対応策を直ちに検討することをお勧めします。
滞納の原因がコロナ禍による倒産、廃業、賃金カットによるものか、他の原因なのかにより対応は変わります。原因がコロナ禍以外である場合には、毅然とした態度で対応することが必要な場合があります。

借地借家法では、借主が滞納した場合でもオーナーが直ちに退去を言い渡すことは認められていません。貸主および借主の信頼関係を破壊したと認められる場合に退去を求めることができるとされており、実務では滞納が3か月以上続いた場合とされています。このため、退去を求める訴えを裁判所に提起する場合は、滞納が3か月以上続いている必要があり、3か月未満の場合は裁判所が訴状を受け取りません。また、かなりの費用と時間を要します。

連帯保証人への請求や賃貸保証会社に対する請求も考えられますが、コロナ禍という特別な社会情勢なので、連帯保証人が家賃を肩代わりを出来ない場合があります。また、賃貸保証会社に対する請求は「最後の手段の一歩手前」くらいに考えておく必要があります。理由は後述します。

滞納の原因がコロナ禍にある場合

借主が国や都道府県、地区長村による各種支援策を受けていないようであれば、直ちに申請するように伝えることが必要です。支援策の概要は、このWEBサイトにも記載しています(借主向けの記事です)。

借主からは家賃を半額にして欲しいとか、しばらくの間、タダにして欲しい等と言われるかもしれませんが、オーナーにおいて金融機関への返済が滞ると共倒れになります。家賃の減額に応じるとしてもどの位まで減額できるかについて、考える必要があります。

このあたりは貸主および借主の間における権利調整が必要な場面ですが、オーナーは借入金の返済、固定資産税等の納付、建物の維持費などの支払いがありますので、賃料半額とかタダの要望には応じられないことが大半だと思います。

賃料の全額を払えないなら退去してもらうことになる旨を伝えても、特に無収入の場合には入居審査を通過出来ず、移転先を探すことができない場合があります。現在のコロナ禍では、退去後に新しい入居者が短期間に決まるとは限りません。オーナーの持ち出しでリフォームしなければならない(敷金ではまかないきれない場合)こともありますし、新たな入居者を募集をする際には仲介手数料などの費用が発生します。

借主が、減額した賃料であれば払えるという状況であれば、オーナーにおいてはその方が得策な場合が多いので、慎重に検討する必要があります。

東京都内の私が懇意にしているオーナーや不動産業者では、期限を設けた上で概ね15~20%前後の減額に応じているところが多いようです。期限はとりあえず3か月位とし、その後はコロナ禍の状況により協議するとか、期間を年末までと定めて減額に応じているところもあります。オーナーにおける借入金の返済額と税負担とを考えると、20%以上の減額は難しいところが大半ではないかと思います。

減額した金額については、コロナ禍の収束後に徴収することを決めているオーナーもいらっしゃいます。コロナ禍の収束後に一括徴収するか、月割りで通常の賃料に上乗せして徴収するかは、借主の状況とオーナーの懐具合を勘案して考えることになります。

特段の注意が必要なのは、借主から「賃料の変更に関する合意書」等の書面作成を求められた場合です。内容により、契約の更新後も減額した賃料が適用されることを認めてしまう文言になることがありますし、コロナ禍の収束後に減額した賃料を回収できなくなる場合があります。作成する場合は慎重に作成する必要があります。

賃料を減額しても支払えない借主の場合

オーナーが提案した減額した賃料さえも支払えず、滞納を続ける借主の場合にはどうするかが問題となります。最終的には退去していただくことを考える必要があります。

司法の手を借りて退去させる場合はかなりの時間と費用が発生します。このため、家賃が支払われる見込みがない場合は滞納家賃を免除する代わりに早期に退去してもらうことをオーナーから提案するのが得策かもしれません。

滞納された家賃の回収方法としては、連帯保証人への求償が考えられます。しかし、現在のコロナ禍では連帯保証人における資力が乏しくなっていることが多く、賃料の肩代わりを求めても断られることがあります。

賃貸保証会社の保証がある場合は、賃貸保証会社に賃料相当額の支払いを求めることが出来ます。しかし、滞納の事実が個人信用情報機関に掲載されると、コロナ禍であることも災いし、移転先が見つからない等の弊害が生じることがあります。退去してもらうことを念頭に置く場合は、賃貸保証会社に対する請求は、少し待つのが良い場合があります。なお、請求期限がありますので注意が必要です。
ちなみに、家賃が賃貸保証会社を経由してオーナーに支払われる場合は該当しません。

預り敷金がある場合は、退去の際にそこから差し引くことが考えられます。しかし、東京都内における敷金は通常1~2か月分の家賃相当額なので、全額の充当はまず困難です。
本来、敷金とは借主が毀損した箇所の修繕に利用する性質の金銭であり、家賃の滞納額に充当することは想定していません。しかし、退去の際に敷金から家賃の未納分を差し引くことは慣例として認められています。

明け渡し請求の裁判を提起する場合

前述したとおり、明け渡しを求める訴えを裁判所に提起する場合は、滞納が3か月以上続いている必要があります。裁判所は、滞納期間が3か月未満の場合はには訴状を受け取りません。

やむを得ず、裁判所の訴えを提起することが必要になることがありますが、これは長くなりますので、明日、改めて書きます。