不動産の競売購入、不動産業者以外は手出し無用

 タイトルに記載した「競売」とは、全国の地方裁判所が開催する担保不動産競売および強制競売のことです。「競売で不動産を購入したものの、明け渡しの受け方がわからないので教えてほしい」等の相談がたまにあります。

 また、「不動産を競売で購入したいので、購入の代行を依頼できないか」との問合せをいただくことがあります。しかし、以下に示すように問題が山積しているので、競売購入の代行はお受けしていません。

 過去にこのブログに書いたことがありますが、筆者の会社は以前に競売による不動産の仕入れをしたことがあります。競売では予期しないことがよく起こります。

競売手続の取り下げ

 よくあるのは競売の「取り下げ」です。地方裁判所による「期間入札の公告」の公開後、開札までの間に競売手続が取り下げられることがよくあります。

 酷い場合は入札期間の終了後、開札までの間に取り下げられることがあります。入札保証金(通常は売却基準価額の2割)を裁判所に納付し、入札書類を提出していても当該物件の競売は中止になります。

 通常は、競売手続と併行して売却に向けた販売活動が行われます。この販売活動ににょり新たな買主が決まった場合、競売の必要がなくなるので競売は取り下げられます。

明け渡しがスムーズに行われるとは限らない

 「競売になった理由に納得していない」などと主張し、所有者(債務者・所有者)が何としても明け渡しに応じないことがあります。

 どうしても話し合いが成立しない場合は、裁判所に強制執行を申し立てることになります。この場合は裁判所の執行官、執行補助者や立会人の日当、家財道具を搬出して保管する費用、鍵の交換費用等が必要です。 

 また、強制執行を申し立てても必ず実施されるとは限らないことに注意する必要があります。例えば元の所有者の子(小・中学生)のみが当該建物で生活している場合です。両親の居所が全くわからないと、執行不能になります。執行不能とされると不動産の所有権は落札者に移転するものの、明け渡しの請求はできなくなります。

 筆者の会社における実際の事案ですが、債務者(元の所有者)が立てた弁護士が債務者に対し過度に感情移入したことがあります。明け渡し請求および強制執行の申し立てに対する妨害が執拗に行われ、明け渡しが大幅に遅れたことがあります。

物件の現況が「期間入札の公告」記載の通りとは限らない

 期間入札の公告では、物件の現況に関する住人の陳述を記載していることが多いですが、全くあてになりません。

 筆者が以前に入札して買い受けた物件では雨漏りがあるのに「雨漏りはしていません」との陳述が記載されていました。しかし、かなり酷い雨漏りがあり、侵入した雨水により梁や柱が損傷し、キノコが生えていました。想定以上の大工事が必要になり、莫大な修理費が発生しました。このようなことがあっても、元の所有者または裁判所に修理費を請求することは認められません。

退去の際に嫌がらせをされることがある

 戸建住宅が明け渡されたので内部を確認したところ、数カ所の壁に大きな穴が空けられ、室内扉のガラスが叩き割られていたことがあります。明らかに嫌がらせです。

無保証

 土地を測量したら登記簿記載の面積とかなり異なることがあります。明け渡された後に隣地の建物が越境していることが判明することがあります。また、検査済証等を求めても渡してくれないことが多いです。

 不測の事態が発生し、裁判所に支払う物件購入費用の他に費用が発生しても、誰にも請求できません。

占有屋や反社会的勢力が介入しやすい

 元の所有者に「退去しないで済むようにしてあげます」等と言って近づき、金銭を受け取り、明け渡しの妨害をします。さらに様々な罠を仕掛け、入札者から金銭を騙し取ろうとする輩がいます。特に現況空家の物件は要注意であり、罠が仕掛けられる対象になります。詳細は長くなるので割愛します。

ローンによる購入は著しく困難

 物件の明け渡しが正常に行われるかが定かではなく、さらに無保証の不動産なのでどの金融機関も融資には慎重です。不動産業に携わらない一般の方が競売物件の購入目的で融資を引き出すことは無理に近いです。手持ちの現金で物件価格の全額を賄うことが求められます。

何が起きても全て入札者の自己責任

 この記事を執筆している令和6年6月の時点では、不動産業に携わらない一般の方による競売物件の購入は無謀です。占有屋や反社会的勢力にも要注意です。不動産競売では何が起きても自己責任であり、全くお勧めできない状況です。